早馬神社(気仙沼)2026 ─ 12年に一度の午年御縁年、唐桑半島で出会う馬の女神と海上守護の社

唐桑半島の入り口、三陸自動車道のインターを降りて山道を一五分ほど進むと、視界が不意に開ける。眼下に広がるのは、リアス式海岸の深い入江と、初夏の朝陽を受けて鈍く光る漁船の群れ。海風がほんのり潮の香りを運んでくる坂の上に、一基の鳥居が立っている。
ここが、宮城県気仙沼市唐桑町宿浦の 早馬神社(はやまじんじゃ)。「馬」の名を冠する全国でも数少ない神社のひとつで、二〇二六年は十二年に一度の 午年御縁年(うまどしごえんねん) を迎える。しかも今年は六十年に一度巡ってくる 丙午(ひのえうま) という、暦の上では特別中の特別な年だ。鎌倉時代から漁師町を見守ってきた馬の女神に、いま全国から参拝者が向かい始めている。
午年生まれではないが、福カレンダー編集部で東北のパワースポットを担当する旅河楓として、この社の鳥居をくぐる前に少し息を整えた。鳥居の向こうに見える境内は思いのほか広く、海風と山気が混ざり合う独特の気配があった。その理由は、この社が辿ってきた八百年の物語と、東日本大震災を経ても消えなかった祈りの形にある。
鎌倉から流れ着いた一族の祈り ─ 一二一七年の創建譚
早馬神社の創建は 建保五年(一二一七年)。鎌倉時代初期、鶴岡八幡宮の別当を務めた 梶原景実(かじわらかげざね、専光房良暹) がこの地に祠を建てたのが始まりとされる。
景実は 梶原平三景時の兄 にあたる。源頼朝の第一の家臣として知られた景時は、頼朝の死後(一一九九年)に幕府内の権力闘争に敗れ、一族もろとも没落する。さらに和田義盛、畠山重忠といった有力御家人も次々と滅ぼされていく時代の流れを目の当たりにした景実は、世を儚んで鎌倉を離れ、蝦夷千島を目指して奥州を北上した。
その途中、たどり着いたのが当時の「石浜」──現在の唐桑町宿浦である。景実は居宅の脇に一廟を建て、源頼朝、梶原景時、景時の子・梶原景季の御影を安置し、一族の冥福を祈り菩提を弔った。これが早馬神社の始まりであり、以来八百年にわたって梶原家の子孫が代々宮司を務めてきた。
当社の創建は、敗者の祈りから始まった。鎌倉幕府の中枢にいた一族が、すべてを失って辺境にたどり着いた末に建てた社だ。だからこそ、この社は「再起」「巻き返し」の祈願に深く応えてきた──境内の案内板にはそう書かれている。
筆者が宮司家の歴史を知ったとき、この社の独特の空気の正体に少し触れた気がした。栄光の絶頂で建てられた神社ではなく、すべてを失った者が再び立ち上がろうとしたときに生まれた社。それゆえに、勝負どころで願掛けをしたい人の足が、八百年経った今も絶えない。
北条政子の安産祈願と、子育ての社という顔
景実はもう一つ、この地に来る前に大きな仕事を残している。源頼朝の妻・北条政子の安産祈願 を執り行ったという伝承だ。鎌倉随一の祈祷僧として名を馳せた景実の祈りが政子の出産を無事に支えたとされ、以来、早馬神社は 安産・子育ての神社 としても信仰を集めてきた。
実際、現在も七五三詣や安産祈願の参拝者は多く、宮城県内では「子育ての早馬さま」と呼ばれている地域もある。馬の神社というと勝負運・必勝祈願のイメージが先行するが、命を産み育てる祈りの社という側面が、もう一本の太い柱として立っているのが特徴だ。
「早馬」の意味と、海と馬がつながる信仰
ここで一度、社名そのものを読み解いておきたい。「早馬」と書いて「はやま」と読む。実は東北地方には ハヤマ信仰 という独特の山岳信仰があり、「葉山」「羽山」「端山」などさまざまな漢字を当てて、里と奥山の境にある山を祀る素朴な神事が広く伝わっている。
唐桑のハヤマは漢字に「馬」を当てた。これは偶然ではない。地域の伝承では、海から朝陽が昇る頃、奥宮のある 早馬山(はやまさん) の山頂に白馬の影が見えたという話が語り継がれている。馬は古来、神が地上に降り立つときの乗り物(神馬/しんめ)と考えられてきた。山と海と馬という三つの祈りが、ここで一つに結ばれている。
主祭神は倉稲魂命 ─ 五穀豊穣・海上守護・勝運の神
早馬神社の 主祭神は倉稲魂命(うかのみたまのみこと)。一般には伏見稲荷大社の主祭神としても知られる、五穀豊穣と商売繁盛の女神である(宮城県神社庁による紹介)。
唐桑では、稲を実らせる神=豊穣の神=豊漁をもたらす神という連関が古くから意識されてきた。漁業のまち唐桑にあって、倉稲魂命は陸の稲と海の魚の両方を守る存在として崇敬されてきたのである。
さらに早馬神社では、倉稲魂命に加えて、海上安全の神々や馬の神々も配祀される。具体的なご利益は社務所の案内によれば次のようになる。

旅河 楓旅と祈りの編集者
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全国の神社仏閣・パワースポットを自分の足で歩き、土地の歴史と信仰を紐解く旅する編集者。地元の方への取材を大切にし、ガイドブックには載らない「祈りの風景」を伝える記事が読者に支持されている。
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