七十二候 天地始粛 2026 ─ 8月28日〜9月1日、処暑次候 天地の暑さが鎮まり二百十日を迎える5日

この記事でわかること
処暑次候『天地始粛(てんちはじめてさむし)』は2026年8月28日〜9月1日。天地の暑さがようやく鎮まり、万物がひきしまる頃を読み解きます。『粛』の字にこめられた意味、台風の厄日とされる雑節『二百十日』が9月1日に重なる暦、風祭りに祈りを託した農家の心、中国から受け継いだ候の系譜にも触れます。
目次
綿(40候)の実がほころんだ処暑も、次候へと移ります。**2026年8月28日(金)から9月1日(火)までの5日間が、七十二候の第四十一候「天地始粛(てんちはじめてさむし)」**です。「天地(てんち)始(はじ)めて粛(さむ)し」――天と地を満たしていた夏の暑さがようやく鎮まり、あたりの気がひきしまり始める頃を指しています。
私(野分蓮)は福カレンダー編集部で二十四節気・七十二候を担当しています。この候の鍵は「粛(しゅく)」の一字。「静粛」「厳粛」という言葉があるように、「粛」には、しずまる、ひきしまる、おごそかになる、という意味があります。夏のあいだ天地にみなぎっていた熱気がしぼみ、空気が澄んで、どこか張りつめた秋の気配が立ち始める――その微妙な転換を、古人は「天地始めて粛し」と書きとめました。天地始粛は、温風至や鷹乃学習と同じく、中国の宣明暦から受け継がれた候です。
そして2026年のこの候には、暦のうえで見逃せない節目が含まれます。**9月1日(火)が、台風の厄日として知られる雑節「二百十日(にひゃくとおか)」**にあたります。
天地始粛とは ─ 夏の暑さが鎮まり、気がひきしまる
天地始粛は、太陽黄経が処暑の範囲(155〜160度)にある次候です。「暑さがやむ」処暑の初候・綿柎開を経て、この次候では、暑さの鎮まりがいよいよ天地全体に及びます。日中はまだ汗ばむ日もありますが、朝晩の涼しさははっきりと増し、空は高く澄み、雲は秋らしい表情を見せ始めます。蒸し暑さで緩んでいた大気が、きりりとひきしまっていく――そんな季節の引き締まりを、この候は静かに告げています。
空を見上げれば、その変化はいっそう明らかです。低く重い夏の雲に代わって、高い空に鱗(うろこ)のような「鰯雲(いわしぐも)」や「鯖雲(さばぐも)」が広がり始めます。これらの雲は上空に秋の空気が入ってきた証しであり、「鰯雲が出ると天気が下り坂」とも言われます。蒸し暑さの抜けた澄んだ空に並ぶ小さな雲の連なりは、天地がひきしまっていくこの候の、最もわかりやすい便りです。
2026年の暦配置 ─ 満月を過ぎ、二百十日を迎える
2026年の天地始粛(8月28日〜9月1日)は、満月を過ぎた月が欠け始める5日間です。
| 日付 | 六曜 | 月相 | 暦注・行事 |
|---|---|---|---|
| 8月28日(金) | 仏滅 | 満月 | ─ |
| 8月29日(土) | 大安 | 満月 | 大安 |
| 8月30日(日) | 赤口 | 居待月 | 一粒万倍日 |
| 8月31日(月) | 先勝 | 居待月 | ─ |
| 9月1日(火) | 友引 | 居待月 | 二百十日・寅の日 |
満月を過ぎた月が、居待月(いまちづき)へと欠け始める5日間です。そして最終日9月1日(火)は、雑節の二百十日。立春から数えて210日目にあたるこの日は、ちょうど稲が花をつける大切な時期に台風が襲来しやすいことから、古来「農家の厄日」として恐れられてきました。期間中には始め事に縁起のよい吉日も巡ります(日ごとの六曜・吉日は上の表をご覧ください)。
二百十日と風祭り ─ 台風への祈り
二百十日(および十日後の二百二十日)は、稲作にとって最も気がかりな時期でした。丹精込めて育てた稲が、まさに実ろうとするその矢先、暴風雨になぎ倒されてしまう――その恐れから、各地では風の災いを鎮めるための「風祭り(かざまつり)」が営まれてきました。
なかでも富山市八尾(やつお)の「おわら風の盆」は、二百十日の頃に行われる風の盆踊りとして知られます。哀調を帯びた胡弓(こきゅう)の音色にのせて、編笠の踊り手が夜通し町を流す――豊作を祈り、風を鎮めるその祈りは、いまも多くの人を惹きつけてやみません。天地始粛の候は、暑さの鎮まりに秋の訪れを喜びつつ、なお自然の猛威に祈りを捧げる、農の心が息づく頃でもあります。
防災の日とともに
奇しくも9月1日は、現代では「防災の日」。これは1923年(大正12年)の関東大震災にちなむとともに、台風の厄日・二百十日に当たることも踏まえて定められたものです。先人が風を恐れ祈ったこの日に、私たちも防災用品や避難経路を見直す――暦の知恵は、現代の備えにもそのままつながっています。
野分 ─ 台風を呼んだ、秋の古い風の名
「台風」という言葉が広まったのは近代以降のこと。それ以前、秋に野の草を激しく吹き分ける暴風を、日本では「野分(のわき/のわけ)」と呼んできました。「野を分ける風」――その名のとおり、すすきや萩の野原をなぎ倒して吹き抜ける、荒々しくも詩的な秋の風です。
『源氏物語』には、まさに「野分」と題された巻があり、嵐の翌朝の乱れた庭と、人の心のざわめきが描かれます。古来、歌人や物語作者は、野分のあとの荒れた景色に、はかなさや無常の美を見いだしてきました。二百十日に台風を恐れた農の心と、野分に情趣を見た雅(みやび)の心――天地始粛の候には、その二つのまなざしが同居しています。(余談ながら、私の筆名「野分」も、この秋の風にちなんでいます。)
天地始粛5日間の歩き方
- 8月28日(金)仏滅・満月:派手に動くより静かに整える日。満月の夜は、澄み始めた空に月を眺めて。
- 8月29日(土)大安:5日間で最も改まった事に向く吉日。週末でもあり、用事や集いに好適です。
- 8月30日(日)赤口:火に注意する日ながら、始め事の種まきには縁起のよい一日。
- 8月31日(月)先勝:午前の行動が吉。八月の締めくくりを早めに片づけて。
- 9月1日(火)二百十日・防災の日:台風の厄日。空模様に気を配りつつ、防災の備えを見直すのにふさわしい一日です。
福カレンダー編集部の天地始粛ノート ─ 三つのおすすめ
- 空の変化に気づく:天地始粛は、空気がひきしまる候。高く澄んだ空、秋らしい雲の形に、季節の引き締まりを感じてみてください。
- 二百十日に備える:台風シーズンの本番。9月1日の防災の日に合わせて、備蓄や避難の確認を。先人の祈りは、現代の備えに通じます。
- 夏の疲れをいたわる:暑さが鎮まると、緊張が解けて夏の疲れが出やすいもの。栄養と睡眠で、体をやさしく整えましょう。
天地の暑さが鎮まり、気がひきしまる5日間。次の候は、いよいよ穀物が実る「禾乃登(こくものすなわちみのる)」。処暑を締めくくる、実りの候へと続きます。
参考
参考文献・出典
- 暦計算室— 国立天文台 暦計算室(参照: 2026-06-03)
- 七十二候 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-06-03)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-06-03)
2026年の暦カレンダー
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
- 二十四節気
- 自然暦
十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
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