
夏になると街中にうなぎの香ばしい匂いが漂い、「土用の丑の日」の幟(のぼり)が立ち並びます。現代の日本人にとって最も身近な「暦×食文化」の行事といえるでしょう。
土用の丑の日にうなぎを食べる習慣の起源として最も有名なのが、江戸時代の蘭学者・平賀源内が鰻屋の宣伝文句を考えたという説です。夏場に売れ行きが落ちて困っていた鰻屋に、源内が「本日丑の日」と書いた看板を出すよう助言したところ大繁盛した──という逸話は広く知られていますが、実はこれ以前から「丑の日に『う』のつく食べ物を食べると夏負けしない」という民間信仰がありました。
うなぎ、うどん、梅干し、瓜(うり)など、「う」のつく食べ物で暑気払いをする知恵は、暦の節目に合わせた養生法として庶民の間に定着していたのです。
「土用」は二十四節気ではなく、「雑節」と呼ばれる日本独自の暦の区分です。その成り立ちは中国の五行思想にあります。
五行思想では万物を「木・火・土・金・水」の5つの要素に分類します。四季を五行に当てはめると次のようになります。
| 五行 | 季節 | 方角 |
|---|---|---|
| 木 | 春 | 東 |
| 火 | 夏 | 南 |
| 金 | 秋 | 西 |
| 水 | 冬 | 北 |
| 土 | 各季節の変わり目(年4回) | 中央 |
四季が4つなのに五行は5つ。余った「土」は各季節の変わり目に割り当てられました。具体的には、立春・立夏・立秋・立冬の前の約18日間がそれぞれ「土用」となります。
つまり、土用は年に4回あるのですが、夏の土用(立秋前の18日間)が圧倒的に有名です。2026年の夏の土用期間と丑の日は以下のとおりです。
| 期間 | 日付 |
|---|---|
| 夏の土用入り | 7月20日頃 |
| 土用の丑の日(一の丑) | 7月21日頃 |
| 二の丑(ある年とない年がある) | 該当年による |
| 夏の土用明け(=立秋前日) | 8月6日頃 |
「丑の日」は十二支の周期(12日ごと)で巡ってくるため、土用の18日間に丑の日が2回入る年もあります。これを「二の丑」と呼びます。
「土用の丑にうなぎ」という食文化を語るうえで、浜名湖(静岡県浜松市)と三河(愛知県)は欠かせない地域です。
浜名湖の養鰻業は明治33年(1900年)、服部倉治郎が浜名湖畔で養殖を始めたことに端を発します。浜名湖が鰻の養殖に適していた理由は複数あります。
| 条件 | 浜名湖の強み |
|---|---|
| 水温 | 温暖な気候で年間を通じて安定 |
| 水質 | 汽水湖(海水と淡水が混じる)で栄養豊富 |
| 稚魚 | 黒潮に乗って遠州灘に到達する天然シラスウナギを確保 |
| 地下水 | 良質な地下水が豊富で養殖池の水源に最適 |
| 交通 | 東海道の要衝で東京・大阪への出荷が容易 |
最盛期の昭和40年代には全国生産量の7割を占めるほどの一大産地でした。現在は鹿児島県が生産量トップですが、浜名湖ブランドの鰻は品質の高さで今なお全国に名を馳せています。
隣接する三河(愛知県西尾市・一色町)もまた日本有数の養鰻地帯で、矢作川の豊かな水と温暖な気候を活かした養殖が盛んです。中部地方は日本のうなぎ文化の心臓部と言えるでしょう。
「土用の丑にうなぎ」は縁起担ぎだけではありません。うなぎには夏バテ防止に有効な栄養素が豊富に含まれています。
| 栄養素 | うなぎ蒲焼100gあたり | 効果 |
|---|---|---|
| ビタミンA(レチノール) | 1,500μg | 粘膜保護、免疫力向上 |
| ビタミンB1 | 0.75mg | 疲労回復、糖質代謝促進 |
| ビタミンB2 | 0.74mg | 皮膚・粘膜の健康維持 |
| ビタミンD | 19μg | カルシウム吸収促進、骨の健康 |
| ビタミンE | 4.9mg | 抗酸化作用、老化防止 |
| EPA・DHA | 豊富 | 血液サラサラ、脳の健康 |
特にビタミンAの含有量は食品の中でもトップクラスで、夏の強い紫外線で傷んだ粘膜や皮膚の修復に効果的です。万葉集にも大伴家持が「夏痩せにうなぎを食べよ」と詠んだ歌があり、奈良時代から滋養強壮の食材として認識されていたことがわかります。
前述のとおり土用は年に4回ありますが、近年は「冬の土用の丑の日」にもうなぎを食べる動きが広がっています。
冬の土用は立春前の18日間(1月中旬〜2月上旬)にあたり、実はこの時期の天然うなぎは脂がのって旬を迎えます。夏のうなぎが「養殖もの中心の行事食」なら、冬のうなぎは「天然の旬に基づく味覚の選択」とも言えます。
| 土用 | 時期 | うなぎの状態 |
|---|---|---|
| 春の土用 | 4月中旬〜5月上旬 | 活動開始、やや痩せ |
| 夏の土用 | 7月中旬〜8月上旬 | 養殖の出荷最盛期 |
| 秋の土用 |
本記事は一般的な暦の知識や伝統的な解釈に基づいています。 占いの結果を保証するものではありません。最終的な判断はご自身でお願いします。
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| 10月中旬〜11月上旬 |
| 脂がのり始める |
| 冬の土用 | 1月中旬〜2月上旬 | 天然は最も脂がのる |
土用の丑の日にうなぎで暑気払い – 福カレンダーで土用の丑の日を確認し、うなぎを食べて夏を乗り切りましょう。「うなぎ」の「う」は「運」の「う」にも通じます。一粒万倍日と重なれば、スタミナも運気も万倍に。
土用の期間は「土を動かさない」を意識する – 暦の伝統では、土用の期間は土木工事や引っ越し、庭の植え替えなど「土を動かす」行為を避けるとされます。大きな行動は土用明け(立秋以降)に計画し、土用中は身体を休めて英気を養いましょう。
四季の土用を意識して季節の変わり目を養生する – 夏だけでなく、春・秋・冬の土用にも「う」のつく食べ物で養生する習慣をつけましょう。梅干し、うどん、瓜(すいか・きゅうり)などを暦の節目に取り入れれば、一年を通じた健康管理になります。
土用の丑の日は毎年日付が変わり、カレンダーを見ないと正確な日付がわかりません。福カレンダーでは雑節(土用の入り・丑の日)も表示されるので、事前にうなぎの予約や計画を立てることができます。今日の暦で日々の暦注を確認し、土用の到来に備えましょう。
浜名湖・三河の養鰻文化と暦の知恵が生んだ「土用の丑のうなぎ」。その背景にある五行思想や養生の考え方を知ると、一枚のうな重がより深い味わいになるはずです。