七十二候 蟄虫坏戸 2026 ─ 9月28日〜10月2日、秋分次候 虫が戸をふさぎ冬支度を始める5日

この記事でわかること
秋分次候『蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)』は2026年9月28日〜10月2日。土の虫がすみかの戸をふさぎ冬ごもりに入る頃を読み解きます。春の啓蟄『蟄虫啓戸』と対をなす一年の円環、盛りを過ぎゆく虫の音、満月から欠けてゆく月、そして10月入りの暦配置にも静かに触れます。
目次
雷(46候)がついに声をおさめた秋分を承け、暦はいよいよ秋の深まりへと歩を進めます。**2026年9月28日(月)から10月2日(金)までの5日間が、七十二候の第四十七候「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」**です。「蟄(かく)れたる虫(むし)、戸(と)を坏(ふさ)ぐ」――土の中にこもる虫たちが、そのすみかの戸口をふさいで、長い冬ごもりの支度を始める、そんな静かな頃を指しています。
私(野分蓮)は福カレンダー編集部で二十四節気・七十二候を担当しています。「蟄」とは、虫や小さな生き物が土の中にひそみこもることをいう字。秋分の次候に置かれたこの候は、中国の宣明暦から受け継がれ、略本暦にもほぼそのまま伝わってきました。そして何より味わい深いのは、この候が春の啓蟄初候「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」と、ちょうど対をなしていること。三月、土の戸を開いて這い出してきた虫たちが、半年の夏秋をめぐって、いままた同じ戸を、そっと内から閉じてゆく――暦は、一年という時間が円を描いて還ってくることを、虫の小さな身ぶりを通して教えてくれます。
2026年の蟄虫坏戸は、満月から欠けはじめた月が、やがて下弦へと痩せてゆく5日間。そして期間の終わりには、10月という新しい月の入り口が控えています。
蟄虫坏戸とは ─ 虫が戸をふさぐ、秋分の次候
蟄虫坏戸は、太陽黄経が180度を越えて秋分に入ったのち、その第二の候として巡ってくる候です。秋分は、太陽が真東から昇り真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ等しくなる節気。この日を境に、北半球では夜が日に日に長くなり、寒さがゆるやかに、しかし確実に増してゆきます。
「坏(はい)」という字は、もともと「つちで塞ぐ」「土を盛ってふさぐ」という意味を持ちます。土の中に巣をつくる虫たちは、外気がいよいよ冷えてくるこの頃、巣穴の入り口を土でふさぎ、外界と自らを隔てて、ひっそりと越冬の態勢に入ります。鳴く虫たちは声をおさめ、地を這う虫たちは姿を消し、野は一日ごとに静かになってゆく――その移ろいを、わずか五文字に凝縮したのが蟄虫坏戸という候名です。気温が下がると変温動物である虫の活動はにぶり、やがて土中や朽木の陰で身を縮める。暦の言葉は、そうした生き物の理にかなった営みを、ごく素朴な観察として写し取っているのです。
2026年の暦配置 ─ 満月から欠けゆく月と、10月の入り口
2026年の蟄虫坏戸(9月28日〜10月2日)は、満月を迎えた月が、居待月を経て下弦へと欠けてゆく5日間です。
| 日付 | 六曜 | 月相 | 暦注・行事 |
|---|---|---|---|
| 9月28日(月) | 先勝 | 満月 | ─ |
| 9月29日(火) | 友引 | 居待月 | ─ |
| 9月30日(水) | 先負 | 居待月 | ─ |
| 10月1日(木) | 仏滅 | 居待月 | 天赦日・一粒万倍日 |
| 10月2日(金) | 大安 | 下弦の月 | 大安 |
初日9月28日(月)には満月が空にかかり、期間の前半は満ちた月が夜ごとにわずかずつ欠けてゆく「居待月(いまちづき)」――出が遅く、座って待つほどの頃に昇る月――の風情が続きます。そして注目すべきは10月1日(木)。この日は年に5〜6回しか巡らない最上吉日と、始め事の縁起がよいとされる暦注とが重なる、屈指の開運日にあたります。最強の吉日が巡るこの一日の詳細は、上の表をご覧ください。月は10月2日(金)には下弦を迎え、夜空の主役は静かにその座を譲ってゆきます。期間中の日ごとの六曜・吉日も、あわせて上の表でご確認ください。
満ちては欠ける月のうつろいと、戸を閉じてゆく虫の営みとが、どこか響き合う5日間。盛りを過ぎたものが静かに次の季節へ身を引いてゆく――蟄虫坏戸は、そんな引き際の美しさをまとった候でもあります。
虫の音の移ろい ─ 鳴きおさめてゆく秋の虫たち
蟄虫坏戸の頃、野辺の虫の音は、いよいよ盛りを過ぎてゆきます。秋のはじめ、八月から九月にかけて、夜ごとにぎやかに鳴きしきっていた鈴虫やこおろぎ、松虫、くつわむし――その澄んだ音色が、気温の低下とともに少しずつまばらになり、やがてぽつり、ぽつりと、消え入るように細くなってゆく。「虫の音も今はかぎりと弱るなり」と古人が詠んだ、あの惜しむような風情が、まさにこの候のものです。
日本人は古来、虫の音に格別の情趣を寄せてきました。『万葉集』や『古今和歌集』には、こおろぎ(古くは「きりぎりす」と呼ばれた)や鈴虫の声を、秋の寂しさやもの思いに重ねた歌が数多く残されています。さかんに鳴く盛りの音ではなく、衰えゆく音、絶え入る音にこそ、しみじみとした趣を見いだす――盛者必衰の理を、虫の声のうちに聴き取るこの感性は、蟄虫坏戸という候の心とそのまま重なります。やがて虫たちが戸を閉じて静まれば、野は冬を待つ深い静寂へと沈んでゆくのです。
生き物たちの冬支度
戸をふさぐのは、土の虫ばかりではありません。秋分を過ぎたこの頃、野山の生き物たちは、それぞれのやり方で冬への備えを進めます。蛇や蛙、とかげといった変温動物は、やがて土中や石の下で冬眠の支度に入り、栗鼠(りす)や山鳥は木の実をせっせと蓄えはじめます。熊もまた、冬ごもりに向けて旺盛に餌を食む頃。木々は葉を落とす準備として、根もとへ養分を引き戻しはじめます。
「蟄虫、戸を坏ぐ」という五文字は、土の虫一匹の身ぶりを描きながら、じつは自然界全体が一斉に向かう、冬への大きな身じたくを暗示しているのです。盛りの季節に外へ外へと広がっていった命のエネルギーが、いまや内へ内へと畳まれ、静かに蓄えられてゆく。暦が虫を主役に選んだのは、その目立たぬ小さな営みのうちにこそ、季節の本質が宿ると見たからにほかなりません。
啓蟄との往還 ─ 戸を開き、戸を閉じる一年の円環
この候のいちばんの妙味は、なんといっても春の啓蟄初候「蟄虫啓戸」との対応にあります。三月のはじめ、啓蟄の節気に入ると、暦はまず「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」――土の中にこもっていた虫が戸を開いて這い出してくる――と告げました。そして半年あまりの春・夏・秋をめぐって、いま秋分の次候で、暦はふたたび虫を呼び出し、こんどは「戸を坏ぐ」と語るのです。
開いた戸が、めぐりめぐって閉じられる。芽吹き、繁り、実り、そして静まってゆく――一年という時間が、虫の小さな出入りを節目として、みごとに円を閉じます。この対句は、七十二候が単なる季節のスケッチではなく、循環する自然の理をとらえた知恵の体系であることを、何より雄弁に物語っています。春に戸を開けて出ていった虫が、半年を生き抜いて同じ戸へ還り、内からそっと閉ざす。その円環のなかに身を置くとき、私たちもまた、めぐる季節の大きな輪の一部であることに、ふと気づかされるのです。
蟄虫坏戸5日間の歩き方
- 9月28日(月)満月:戸をふさぐ虫の頃に、空には満ちた月。夜長の窓辺で、欠けはじめる前の丸い月を見上げてみては。
- 9月29日(火)友引:人と分かち合う事に縁のよい日。秋の夜長、誰かと虫の音に耳を澄ませる時間を。
- 9月30日(水)先負:午後からの行動が穏やかに運ぶ日。九月の終わり、移りゆく季節を静かに見送って。
- 10月1日(木)天赦日・一粒万倍日:年に数えるほどしか巡らない最上の吉日が、始め事の縁起日と重なる屈指の開運日。新しい習慣や願い事の出発点にふさわしい一日です。
- 10月2日(金)大安・下弦の月:十月最初の大安。月が半ばまで欠ける下弦の頃、改まった事や仕切り直しに向く一日です。
福カレンダー編集部の蟄虫坏戸ノート ─ 三つのおすすめ
- 虫の音を聴きおさめる:盛りを過ぎ、やがて静まる秋の虫。鳴き声が細くなってゆくこの頃こそ、夜の静けさのなかで耳を澄ませる値打ちがあります。
- 冬支度を始める:虫が戸をふさぐのにならい、暮らしにも小さな冬じたくを。衣替えや暖かな寝具の用意、温かい飲み物の支度から、季節の切り替えを。
- 一年の円環を思う:春に戸を開いた虫が、いま戸を閉じる――めぐる季節の輪のなかにいる自分を、ひととき静かに感じてみてください。
虫が戸をふさぎ、野が静まってゆく5日間。次の候は、田の水が落とされて乾いてゆく「水始涸(みずはじめてかるる)」。実りの稲を刈り入れるために、田から水を抜く頃――秋の収穫へと向かう、秋分の末候へと続きます。
参考
- 国立天文台 暦計算室「暦象年表」(秋分=太陽黄経180度の定義および2026年の節気日・満月・下弦の時刻)
- 略本暦(明治7年改暦)における秋分次候「蟄虫坏戸」、および啓蟄初候「蟄虫啓戸」との対応関係
- 虫の音をめぐる和歌の伝統(『万葉集』『古今和歌集』)と、生き物たちの越冬・冬支度の生態
- 福カレンダー暦マスターデータ(2026年9月〜10月の六曜・月相・天赦日・一粒万倍日)
参考文献・出典
- 暦計算室— 国立天文台 暦計算室(参照: 2026-06-03)
- 七十二候 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-06-03)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-06-03)
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
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十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
この編集者の記事を見る →この記事について
本記事は一般的な暦の知識や伝統的な解釈に基づいています。 占いの結果を保証するものではありません。最終的な判断はご自身でお願いします。
免責事項を読む →福カレンダーでは、暦に関するコンテンツを正確かつ分かりやすくお届けするよう努めています。
編集方針について →参考情報:暦注・民俗資料、公的機関の暦情報を参考に編集部が整理しています。
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