七十二候 雪下出麦 2026 ─ 1月1日〜4日、冬至末候 雪の下で麦が芽吹き年をまたぐ4日

この記事でわかること
冬至末候『雪下出麦(ゆきわたりてむぎいずる)』は2026年1月1日〜4日、正月三が日と重なります。一面の雪に覆われた田畑の、その雪の下で、秋に蒔いた麦が静かに芽を出している頃を読み解きます。麦が『年越草』と呼ばれるわけ、踏まれて強くなる『麦踏み』の農の知恵、初夏の麦秋至と対をなすひと粒の麦のいのちのめぐり、二十三夜から晦へと細る正月の月、そして一陽来復の希望にも触れます。
目次
雪の下で鹿が古い角を落とした前の候――冬至次候・麋角解(さわしかのつのおつる)を承け、暦は一年でもっとも昼の短い節気・冬至の、その最後の候へと静かに歩を進めます。**2026年1月1日(金)から1月4日(月)までの4日間が、七十二候の第六十六候「雪下出麦(ゆきわたりてむぎいずる)」**です。「雪(ゆき)下(わたり)て麦(むぎ)出(いず)る」――一面の雪に覆われた田畑の、その雪の下で、秋に蒔いた麦が静かに芽を出している頃を指しています。
私(野分蓮)は福カレンダー編集部で二十四節気・七十二候を担当しています。雪下出麦は、冬至という節気を締めくくる末候であると同時に、立春を起点とする暦の一年を、いよいよ送りおさめる候でもあります。読みは「ゆきわたりてむぎいずる」のほか、「ゆきくだりてむぎのびる」とも伝えられ、暦の本によって少しずつ異なります。いずれにせよ、雪の下で麦が芽吹くという、目には見えない地中の営みを言葉にした、奥ゆかしい候名です。寒さのきわみにあって、すでに次の季節の生命がひそかに動きはじめている――冬至を境に日脚が少しずつ伸びてゆくのと響きあう、希望をはらんだ候だといえるでしょう。
この候には、ひとつ美しい対があります。七十二候のなかほど、初夏の小満の末候に「麦秋至(むぎのときいたる)」――麦が熟して黄金色に色づき、収穫の秋(とき)を迎える候があります。雪下出麦が告げる冬の芽生えと、麦秋至が告げる初夏の実り。一粒の麦が、真冬に芽を出してから初夏に穂を実らせるまでの、半年あまりのいのちのめぐりが、七十二候のなかに対をなして織りこまれているのです。
雪下出麦とは ─ 雪の下で麦が芽吹く、冬至の末候
雪下出麦は、太陽黄経が270度に達して冬至に入った、その最後の候です。冬至とは、一年でもっとも昼が短く、夜が長い日。太陽の力がもっとも弱まる底にあたりますが、裏を返せば、ここから日脚はふたたび伸びてゆきます。冬至を「一陽来復(いちようらいふく)」――陰が極まって、ふたたび陽が兆しはじめる節目と呼ぶのは、このためです。雪下出麦は、その一陽来復の気を、雪の下の麦の芽に託した候だといえます。
なお、雪下出麦という和名は、明治7年の略本暦に載る本朝七十二候の呼び名で、もとは江戸時代に渋川春海らが日本の気候風土に合わせて改めたものです。同じ冬至末候を、中国の古い宣明暦では「水泉動(すいせんうごく)」――凍てついた地中の泉の水が、寒のなかにかすかに動きはじめる頃、と詠んでいたと伝わります。同じ節気の終わりを、中国では地中の水のめざめに、日本では雪の下の麦の芽吹きに託した――その移しかえに、暦が土地の暮らしへ寄り添ってきたあとが見てとれます。
主役となる麦は、秋に種を蒔く「秋蒔き麦(あきまきむぎ)」です。十月から十一月にかけて蒔かれた麦は、年の暮れにはもう青い芽を地上にのぞかせ、冬のあいだじゅう、雪や霜のもとでじっと寒さに耐えながら根を張ってゆきます。多くの草が枯れ伏す真冬に、あえて緑の芽をのばすその姿から、麦は古くから「年越草(としこしぐさ)」とも呼ばれてきました。年をまたいで青々と生きつづける草――その呼び名は、まさにこの正月の頃の麦畑の景色そのものです。
雪は、芽吹いたばかりの麦にとって、冷たい敵であると同時に、やわらかな布団でもあります。降り積もった雪は、外気の厳しい寒さや乾いた風から麦の芽を守り、地面の温度を一定に保ってくれます。雪国で「雪は豊年のしるし」と言い習わされてきたのも、雪の下で麦や作物が守られて育つことを、人々が経験として知っていたからでしょう。雪下出麦という候名の奥には、雪を厄介者としてではなく、いのちを育てるものとして見つめてきた、農の暮らしのまなざしが息づいています。
2026年の暦配置 ─ 二十三夜から晦へ、年をまたいで細る月
2026年の雪下出麦(1月1日〜4日)は、前年の暮れに下弦をすぎた月が、明け方の空に二十三夜から有明の月と細りながら昇り、やがて晦(つごもり)へと姿を消してゆく4日間です。立春を起点とする暦の一年のうえでは、この冬至末候が、いよいよ一年を送りおさめる区切りにあたります。
| 日付 | 六曜 | 月相 | 暦注・行事 |
|---|---|---|---|
| 1月1日(金) | 仏滅 | 二十三夜 | 元日 |
| 1月2日(土) | 大安 | 暁の月 | 巳の日 |
| 1月3日(日) | 赤口 | 有明月 | ― |
| 1月4日(月) | 先勝 | 晦に近い月 | ― |
初日の1月1日(金)、すなわち元日には、夜更けから明け方にかけて、二十三夜の月が東の空に細く昇ります。月はそこから日ごとにいっそう細り、2日・3日と明け方の暁の空に有明の月となってかかり、4日には晦(つごもり)――月が太陽に近づいて見えなくなる頃へと向かってゆきます。年が改まり、夜空の月もまた古い姿を消して、やがてめぐりくる新しい朔(さく)を待つ――暦の大きな区切りと、月の満ち欠けの区切りとが、静かに重なりあう4日間です。日ごとの六曜・吉日は、上の表をご覧ください。元日の払暁、初日の出を待つあいだに、西の空にまだ残る細い月を探してみるのも、この候ならではの楽しみです。
ひとつ申し添えておきたいのは、元日の1月1日が六曜では仏滅にあたること。けれども、どうかご案じなく。正月行事は、六曜とはまったく別の、年神(としがみ)さまをお迎えする神事の暦にもとづくものです。初詣・おせち・若水(わかみず)・初日の出といった正月のならわしは、六曜の吉凶とは無関係に、古来そのまま寿(ことほ)がれてきました。元日が仏滅であっても、年のはじめを祝う心はいささかも揺らぐものではありません。その日その日の暦注・吉日は、すべて上の暦配置の表に集約しましたので、あわせてご覧ください。
雪の下の麦と、麦踏みという農の知恵
雪下出麦を読み解くうえで、ぜひ知っておきたいのが「麦踏み(むぎふみ)」という、いかにも日本らしい農の習わしです。
冬のあいだ、農家は芽を出した麦の上を、足でわざわざ踏んでまわります。せっかく芽生えた苗を踏みつけるとは、はじめて知る人には乱暴に思えるかもしれません。けれども、これには深いわけがあります。第一に、芽が伸びすぎてひょろひょろと徒長するのを抑え、ずんぐりと丈夫な株に育てるため。第二に、踏むことで根もとに刺激を与え、一本の苗から多くの茎が枝分かれする「分蘖(ぶんけつ)」をうながし、ひいては収穫を増やすため。そして第三に、霜柱が立って地面が持ち上がり、麦の根が浮いてしまうのを、踏み固めて防ぐためです。寒さと霜のなかで、麦はあえて踏まれることによって、かえって強く、たくましく育ってゆくのです。
この「踏まれて強くなる麦」の姿は、古くから人の生き方のたとえとしても語られてきました。逆境や試練に踏まれてこそ、人は根を張り、ねばり強くなる――麦踏みの景色には、そんな人生訓めいた響きさえ重なります。寒風のなかを一列に進みながら、一歩ずつ麦の芽を踏んでゆく農の人の姿は、冬の田園の、忘れがたい原風景のひとつです。雪下出麦の頃、雪の晴れ間には、各地でこの麦踏みが静かに始まります。
麦秋至との対 ─ ひと粒の麦がたどる半年
先にふれた通り、雪下出麦には「麦秋至(むぎのときいたる)」という、季節を半周へだてた対の候があります。小満の末候、五月の末から六月のはじめにあたるこの候は、麦が黄金色に熟して、いよいよ刈り入れの「秋(とき)」を迎える頃を指します。「麦秋(ばくしゅう)」とは、初夏でありながら麦にとっては実りの秋――という、季節の言葉の妙です。雪下出麦で雪の下に芽生えた一粒の麦は、麦踏みに鍛えられ、春の陽ざしに丈を伸ばし、やがて麦秋至の頃には頭を垂れる黄金の穂となります。冬至の闇のなかで芽吹き、初夏の光のなかで実る――七十二候は、この一粒の麦のいのちのめぐりを、暦の両端に対として配しているのです。
雪下出麦4日間の歩き方
- 1月1日(金)元日:一年のはじまりの日。初日の出を拝み、若水を汲み、おせちを祝う一日です。早朝、初日を待つあいだに、西空に残る細い二十三夜の月を探してみてください。雪国の方は、雪の田畑の下で芽吹く麦に、新年の希望を重ねてみては。
- 1月2日(土)書き初めと初夢:古くから書き初めや初荷、仕事はじめの心づもりをととのえる日とされてきました。前夜に見る夢が「初夢」。雪の下で麦が芽吹くように、年のはじめの小さな願いを、静かに心に蒔いてみましょう。
- 1月3日(日)三が日の締め:正月三が日の最後の日。明け方の暁の空に、いよいよ細くなった有明の月がかかります。寒中の澄んだ空気のなか、近くの麦畑や田の畔に、青い芽がのぞいていないか探してみるのも一興です。
- 1月4日(月)仕事はじめ:多くの職場で御用始め・仕事はじめを迎える日。月は晦に近づいて姿を消し、暦は新しいめぐりへ。冬至の最後の一日、雪の下の麦の芽のように、今年一年、地中で根を張る心づもりで、穏やかに歩みはじめましょう。
福カレンダー編集部の雪下出麦ノート ─ 三つのおすすめ
- 雪の下の麦に思いをはせる:雪下出麦は、目に見えない地中の芽生えを言葉にした候。雪の田畑を見かけたら、その下で青い麦の芽が静かに息づいていることを思い出してみてください。寒さのきわみに兆す、小さないのちへのまなざしが、冬の景色を変えてくれます。
- 「年越草」という呼び名を味わう:年をまたいで青々と生きつづける麦は、古くから「年越草」と呼ばれてきました。正月の食卓で麦の入ったご飯やうどんをいただきながら、年を越して芽吹く麦の生命力を、舌でも味わってみてはいかがでしょう。
- 一陽来復の気を心に納める:冬至は陰が極まり、ふたたび陽が兆しはじめる節目。雪下出麦は、その一陽来復を雪の下の麦に託した候です。日脚がこれから少しずつ伸びてゆくことを思いながら、年のはじめの希望を、静かに胸に納めてみてください。
雪の下で麦が芽吹き、月が細りながら年をまたぐ4日間。これで冬至の三候はすべて終わり、暦のうえの一年も送りおさめとなります。次の候は、節気が冬至を閉じて寒の入り――小寒(しょうかん)へと移り、その初候は「芹乃栄(せりすなわちさかう)」。春の七草のひとつ・芹が、冷たい清水のほとりで瑞々しく群れ生える頃へと、暦はいよいよ一年でもっとも寒い「寒(かん)」の季節へ分け入ってゆきます。雪の下の麦の芽に新年の希望を重ねて、寒さのなかにひそむ春の兆しを、これからもともに探してまいりましょう。
参考
- 国立天文台 暦計算室「暦象年表」(冬至=太陽黄経270度の定義および2025年12月〜2026年1月の節気日・朔(新月)・下弦・月相の時刻)
- 略本暦(明治7年改暦)における冬至末候「雪下出麦」、読み(ゆきわたりてむぎいずる/ゆきくだりてむぎのびる)の異同、中国・宣明暦の対応候「水泉動」、対をなす小満末候「麦秋至」、次節気・小寒初候「芹乃栄」への接続
- 七十二候の歴史(古代中国の原型/渋川春海らによる本朝七十二候への改訂/明治7年略本暦)、秋蒔き麦の生態と「年越草」の異名、冬の農事「麦踏み」(徒長抑制・分蘖促進・霜柱対策)、冬至「一陽来復」の考え方、正月行事と六曜の関係
- 福カレンダー暦マスターデータ(2026年1月の六曜・月相・巳の日・旧暦)
参考文献・出典
- 暦計算室— 国立天文台 暦計算室(参照: 2026-06-04)
- 七十二候 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-06-04)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-06-04)
2026年の暦カレンダー
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
- 二十四節気
- 自然暦
十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
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