七十二候 霎時施 2026 ─ 10月28日〜11月1日、霜降次候 小雨が時々降る時雨の5日

この記事でわかること
霜降次候『霎時施(こさめときどきふる)』は2026年10月28日〜11月1日。降ってはやみ、やんでは降る時雨(しぐれ)の季節を読み解きます。中国の『草木黄落』を略本暦が書き換えた候の系譜、初時雨や北山時雨の情趣、西行や芭蕉が時雨に重ねたもののあはれ、時雨が紅葉を深めるという見立て、居待月から下弦へ細る晩秋の月にも触れます。
目次
野にはじめて霜が降りた霜降(52候・霜始降)を承け、暦は霜降を真ん中で支える次候へと進みます。**2026年10月28日(水)から11月1日(日)までの5日間が、七十二候の第五十三候「霎時施(こさめときどきふる)」**です。「霎(こさめ)時々(ときどき)施(ほどこ)す」――小雨が、降ってはやみ、やんでは降りと、定めなく通り過ぎてゆく頃を指しています。
私(野分蓮)は福カレンダー編集部で二十四節気・七十二候を担当しています。霎時施は、晩秋から初冬へと傾いてゆく季節を、ひとしきり降る通り雨に託して語る候です。ここで「霎」と書かれているのは、ひとときの小雨・通り雨をあらわす文字で、まさにこの季節の「時雨(しぐれ)」そのもの。じつはこの候、もとをたどると中国の宣明暦では「草木黄落(そうもくこうらくす)」――草木が黄ばみ、葉を落とす頃、と記されていました。それを日本の略本暦が「霎時施」へと書き換えたのです。葉の色づきという目に映る変化を語った大陸の候に対し、日本は、その季節を満たす雨そのものに目を向けました。葉を染め、葉を落とすその力を、空から降りそそぐひとしきりの時雨に見出して書き改めた――そこには、移ろいの気配を雨の音に聴き取ろうとする、この国ならではのこまやかな季節感がにじんでいます。
2026年の霎時施は、満月を過ぎて欠けはじめた居待月の宵から始まり、月が夜ごとに細りながら、下弦へと向かっていく5日間。降ってはやむ時雨に野山がしっとりとぬれ、楓や蔦がいよいよ色を深めてゆく、秋のもっとも美しく、そして名残りおしい頃合いです。
霎時施とは ─ 小雨が時々降る、霜降の次候
霎時施は、太陽黄経が215度前後に達した霜降の半ばに置かれた候です。霜降とは、朝晩の冷えこみがいよいよ強まり、野の露がやがて霜へと変わってゆく頃を表す節気。その霜降の真ん中で、空はにわかに翳り、ひとしきりの雨を落としては、また晴れ間をのぞかせます。
なぜ、この季節の雨は「時々施す」――降ったりやんだりするのでしょうか。晩秋から初冬にかけて、日本の上空では、夏のあいだ列島をおおっていた暖かな空気にかわって、北から冷たい大陸の空気が下りてきます。その冷気が、まだ暖かさを残す地表や海上の空気とせめぎ合うところに、ちぎれ雲が次々と湧いては流れ、ひとしきり雨を落としてはまた過ぎ去ってゆくのです。だからこの頃の雨は、一日じゅう降りつづく梅雨の雨とはまるで性質がちがいます。さっと降ってはからりとやみ、青空がのぞいたかと思えばまた雲が翳る――そのうつろいやすさ、定めなさこそが、晩秋の雨「時雨」の本領なのです。古人は、この気まぐれな小雨のなかに、移ろう季節のかたちそのものを見ていました。
2026年の暦配置 ─ 居待月から下弦へ、細りゆく晩秋の月
2026年の霎時施(10月28日〜11月1日)は、満月を過ぎて欠けはじめた居待月の宵に始まり、月が夜ごとに細りながら下弦へと向かっていく5日間です。
| 日付 | 六曜 | 月相 | 暦注・行事 |
|---|---|---|---|
| 10月28日(水) | 友引 | 居待月 | ─ |
| 10月29日(木) | 先負 | 寝待月 | ─ |
| 10月30日(金) | 仏滅 | 更待月 | ─ |
| 10月31日(土) | 大安 | 二十日余りの月 | 寅の日・大安 |
| 11月1日(日) | 赤口 | 下弦近し | ─ |
初日の10月28日(水)には、夜がふけてから東の空に、満月をやや過ぎて欠けはじめた居待月がのぼります。居待月とは、立って待つには遅く、座って(居て)待つほどに月の出が遅れる頃あいの月。月はそこから一夜ごとに出を遅らせ、29日(木)には寝待月、30日(金)には更待月と、いよいよ夜ふけを待たねば姿を見せなくなり、期間の終わりには下弦に近い半月へと細っていきます。時雨に翳る宵が多いこの候、晴れ間にようやくのぞく細りゆく月を見上げる――そんな静かな夜のかさなりが、5日間の趣です。期間中には、暦のうえで始め事に縁起のよい吉日や、めでたい日も含まれますが、日ごとの六曜・吉日は、上の表をご覧ください。月のかたちと暦注を手がかりに、移ろいやすい晩秋の空を一日ずつ味わってみてください。
時雨(しぐれ)─ 定めなく通り過ぎる、晩秋の小雨の文化
霎時施を読み解くうえで、どうしても語っておきたいのが「時雨」という、日本の季節がもっとも愛してきた雨のひとつです。
時雨とは、晩秋から初冬にかけて、ひとしきり降ってはやみ、所をかえてまた降る通り雨のこと。同じ空の下でも、ある里では降り、隣の里では晴れている――そんな降りかたをするため、古来「片時雨(かたしぐれ)」「村時雨(むらしぐれ)」といった細やかな呼び名が生まれました。その年に初めて降る時雨は「初時雨(はつしぐれ)」と呼ばれ、冬の訪れを告げる便りとして、とりわけ心待ちにされてきました。なかでも京都では、北山のあたりからにわかに雲がわいて、町へと時雨が下りてくるさまを「北山時雨(きたやましぐれ)」と呼びならわし、底冷えの京の冬の入り口を象徴する景物として、幾多の歌や随筆に書きとめられてきたのです。
定めなく過ぎ去る時雨は、いつしか人の心の移ろいや、世のはかなさへと重ねられるようになりました。鎌倉の歌人・西行をはじめ、いくたりもの歌人が、晩秋の時雨に世の無常や旅の心細さを託して詠み、時雨は和歌における「もののあはれ」を代表する景物のひとつとなっていきます。降るともなく降り、やむともなくやむそのさまに、人々は、とどめようもなく過ぎてゆく時のすがたを見たのでしょう。涙にくれることを「時雨る(しぐる)」と言いならわしたのも、にわかにこぼれてはやむ涙を、この通り雨になぞらえたためでした。
芭蕉と時雨 ─ 「初しぐれ猿も小蓑をほしげなり」
時雨を愛した文人は数知れませんが、ことに俳諧の世界では、松尾芭蕉がこの雨をわが身の象徴のように好みました。「初しぐれ 猿も小蓑(こみの)を ほしげなり」――旅の途中、にわかな初時雨に降られた芭蕉が、ふと木立に目をやると、一匹の猿が雨に濡れそぼっている。あの猿も、人のように小さな蓑をほしがっているのではないか、と。冷たい初冬の雨にうたれる小さな命へまなざしを向けたこの一句には、漂泊の身をいとおしむ芭蕉自身の心が、そのまま映し出されています。
芭蕉の門人たちは、師を慕う気持ちを「時雨忌(しぐれき)」という言葉に託しました。芭蕉が世を去ったのが旧暦十月十二日、ちょうど時雨の季節であったことから、その忌日を「時雨忌」「芭蕉忌」と呼び、いまも晩秋から初冬の季語として受け継がれています。降ってはやむ時雨の空の下、ひとりの旅の詩人を偲ぶ――そこには、過ぎゆくものをいつくしむ日本の心が、しずかに息づいています。そして時雨は、ただ寂しいだけの雨ではありません。冷たい雨に幾度も打たれることで、楓や蔦の葉は緑の色素をうしない、紅や黄をいよいよ濃く染めあげてゆく。古人は、時雨こそが山を錦に染める雨だと見ていました。「時雨の染め」という言葉が伝えるとおり、この候の雨は、晩秋の野山を彩る、もうひとりの絵師でもあったのです。
霎時施5日間の歩き方
- 10月28日(水)居待月:欠けはじめた月が夜ふけにのぼる宵。降ってはやむ時雨の音に耳をかたむけ、窓辺で熱い茶をいれて、晩秋のしずけさを味わってみてください。
- 10月29日(木)寝待月:月の出がさらに遅れる夜。日中の晴れ間に、時雨にぬれて色を増した楓や蔦をたずね、紅葉の深まりを目におさめましょう。
- 10月30日(金)仏滅:ひかえめに過ごしたい日とされます。にわか雨に備えて傘をひとつ持ち、初時雨の景色を静かに眺めて、過ぎゆく秋を惜しんでみては。
- 10月31日(土)寅の日:金運にゆかりのある日とされます。財布や暮らしの道具を整え、時雨の晴れ間にのぞく細りゆく月を見上げて、晩秋の夜気に身をひたしてみてください。
- 11月1日(日)下弦へ:月が下弦に近づく宵。文化の日を前にした休日、古歌の一首を開いて、西行や芭蕉が時雨に重ねた心に、そっと思いをめぐらせてみましょう。
福カレンダー編集部の霎時施ノート ─ 三つのおすすめ
- 時雨の音に耳をすます:降ってはやみ、やんでは降る晩秋の通り雨。屋根や窓を打つひとしきりの音に、しばし心を遊ばせてみてください。過ぎゆくものをいつくしむ、もののあはれの心がそこにあります。
- 時雨が染める紅葉を訪ねる:冷たい雨に打たれるたび、楓や蔦は色を深めていきます。晴れ間を選んで野山へ出かけ、時雨にぬれていっそう冴えた紅や黄を、自分の目で確かめてみましょう。
- 時雨の古歌・古句にひたる:西行のもののあはれ、芭蕉の「初しぐれ」。一首の歌、一句の俳諧を開いて、千年来この国の人々が、この気まぐれな雨に何を見てきたかに思いをめぐらせてみてください。
降ってはやむ時雨に野山が染まり、月が細りゆく5日間。次の候は、霜降を締めくくる末候「楓蔦黄(もみじつたきばむ)」。楓や蔦が紅や黄にきわまり、山がいよいよ錦に染まる候とともに、秋はその最後のかがやきを迎え、やがて立冬――冬のはじまりへと近づいていきます。
参考
- 国立天文台 暦計算室「暦象年表」(霜降=太陽黄経210度の定義および2026年10月の節気・月相・旧暦)
- 略本暦(明治7年改暦)における霜降次候「霎時施」、中国・宣明暦「草木黄落」との対照
- 時雨(初時雨・村時雨・北山時雨)の語と季節感、西行に見る「もののあはれ」、松尾芭蕉「初しぐれ猿も小蓑をほしげなり」と時雨忌、時雨が紅葉を深めるという見立て
- 福カレンダー暦マスターデータ(2026年10月の六曜・月相・寅の日・旧暦)
参考文献・出典
- 暦計算室— 国立天文台 暦計算室(参照: 2026-06-03)
- 七十二候 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-06-03)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-06-03)
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
- 二十四節気
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十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
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