七十二候 蟋蟀在戸 2026 ─ 10月18日〜22日、寒露末候 きりぎりすが戸口で鳴きおさめる5日

この記事でわかること
寒露末候『蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)』は2026年10月18日〜22日。秋の虫が人家の戸口近くまで来て、晩秋の鳴きおさめをする頃を読み解きます。古名『きりぎりす』が今のこおろぎを指した名の入れ替わり、枕草子や源氏物語に響く虫の音の文化、上弦の月から十二日月へと満ちる夜空、次の霜降への橋渡しにも触れます。
目次
菊(50候・菊花開)が黄や白の花をひらいた寒露を承け、暦は寒露を締めくくる末候へと進みます。**2026年10月18日(日)から10月22日(木)までの5日間が、七十二候の第五十一候「蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)」**です。「蟋蟀(きりぎりす)戸(と)に在(あ)り」――秋の虫が、寒さに追われるように人家の戸口のあたりまで来て鳴く頃を指しています。
私(野分蓮)は福カレンダー編集部で二十四節気・七十二候を担当しています。蟋蟀在戸は、晩秋の夜のしずけさを、小さな虫の声に託して語る候です。ここで「蟋蟀」と書いて「きりぎりす」と読みますが、これは古い時代の呼び名で、いま私たちが「こおろぎ」と呼んでいる虫を指しています。同じ秋分の次候には「蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)」――虫が土の中にこもって戸をふさぐ候が置かれていました。土の奥へと隠れていった虫に対し、こちらは戸口の近くで最後の声を響かせる虫を映す候。地にこもる虫と、戸口で鳴きおさめる虫――暦は、晩秋へ向かう虫たちの二つの姿を、別々の候にそっと書き分けているのです。この候は、日本独自に編まれた多くの秋の候とは異なり、中国の宣明暦から受け継いだ古い候。それだけに、季節の移ろいを虫の所作でとらえる、大陸の自然観のおもむきが色濃く残っています。
2026年の蟋蟀在戸は、空に半月の上弦の月がかかる夜から始まり、月が十日夜・十一日月をこえて十二日月へと丸みを増していく5日間。野の虫の声が日に日に細くなり、やがて霜の便りへと移ろう、秋のもっとも深まる頃合いです。
蟋蟀在戸とは ─ 虫が戸口で鳴きおさめる、寒露の末候
蟋蟀在戸は、太陽黄経が195度に達した寒露の最後の候です。寒露とは、草木に宿る露が、いよいよ冷たく感じられる頃。その寒露を締めくくるこの候では、露を超えて霜に近づく冷えこみが、夜ごとに増していきます。
なぜ虫が「戸に在り」――戸口にいるのでしょうか。秋が深まると、野原や草むらは夜の冷えこみがきびしくなり、虫たちは少しでも暖かい場所を求めて、人家の軒下や石のあいだ、戸口の近くへと身を寄せてきます。夏の盛りには野いっぱいに広がっていた虫の声が、晩秋には、いつのまにか家のすぐそばで聞こえるようになる――その変化を、古人は「虫が戸口まで来た」と詩情ゆたかにとらえました。そして、ここで鳴いているのは、命のおわりが近い虫たちです。秋に生まれたこおろぎの多くは、卵を残して冬を越すことはありません。戸口に響くその声は、寒さのなかで力をふりしぼる、一年さいごの鳴きおさめ。だからこそ、晩秋の虫の音には、どこかもの寂しい余韻がつきまとうのです。
2026年の暦配置 ─ 上弦から十二日月へ、満ちゆく夜空
2026年の蟋蟀在戸(10月18日〜22日)は、空に半月の上弦の月がかかる宵から始まり、月が十日夜・十一日月をこえて、十二日月へと満ちていく5日間です。秋の名月として名高い十三夜(旧暦9月13日)は、候が明けた10月23日(金)――霜降の当日にあたります。
| 日付 | 六曜 | 月相 | 暦注・行事 |
|---|---|---|---|
| 10月18日(日) | 仏滅 | 上弦の月 | ─ |
| 10月19日(月) | 大安 | 上弦の月 | 寅の日・大安 |
| 10月20日(火) | 赤口 | 十日夜の月 | ─ |
| 10月21日(水) | 先勝 | 十一日月 | ─ |
| 10月22日(木) | 友引 | 十二日月 | 己巳の日 |
初日の10月18日(日)には、南の夕空に半月の上弦の月がかかります。月はそこから夜ごとに太り、20日(火)にはふくらみかけた十日夜の月、そして期間の終わりには十三夜へと近づいて、まんまるの満月へと向かっていきます。虫の音が細くなる宵闇に、少しずつ大きくなる月を見上げる――そんな静かな夜のかさなりが、この候の5日間です。期間中には始め事に縁起のよい吉日や、暦のうえでめでたい日も含まれますが、日ごとの六曜・吉日は、上の表をご覧ください。月のかたちと暦注を手がかりに、晩秋の夜を一日ずつ味わってみてください。
「きりぎりす」と「こおろぎ」 ─ 名の入れ替わった虫たち
蟋蟀在戸を読み解くうえで、どうしても触れておきたいのが「きりぎりす」という言葉のふしぎです。先に述べたとおり、この候の「蟋蟀」は、現代の「こおろぎ」を指しています。では、いまの「きりぎりす」はどこへ行ったのか――じつは古代と現代とで、虫の名がそっくり入れ替わってしまったのです。
万葉集や古今和歌集に詠まれる「きりぎりす」は、ほとんどが今のこおろぎのこと。たとえば古今集の名歌「きりぎりす いたくな鳴きそ 秋の夜の 長き思ひは 我ぞまされる」――ここで夜長に鳴いているのは、現代でいうこおろぎです。一方、いまの「きりぎりす」は、平安の頃には「はたおり(機織り)」などと呼ばれていました。その鳴き声が、機を織る音に似ていると聞きなされたのです。やがて時代がくだるなかで二つの名が入れ替わり、江戸期以降には現在の呼び名へと落ち着いていきました。古い暦の言葉が、いまの虫の名とずれているのは、こうした長い歴史の積み重ねによるもの。「蟋蟀」を「きりぎりす」と読むこの候は、千年をへだてた名のうつろいを、そのまま今に伝えているのです。
虫の音を「聴く」という日本の感性
秋の夜に虫が鳴く――それを情趣として愛でる文化は、日本でとりわけ豊かに育まれてきました。清少納言は『枕草子』に「虫は鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす……」と、心ひかれる虫を書き連ねています。紫式部の『源氏物語』にも、鈴虫や松虫の声に秋のあわれを重ねる場面が、いくつも描かれました。
興味ぶかいことに、虫の声を「音色(ねいろ)」として聴き分け、その鳴き声に季節の情緒や寂寥を感じ取るのは、世界的にもめずらしい感性だといわれます。雑音ではなく、虫が奏でる「声」として耳をかたむける――それは、自然の小さな命にまで心をかよわせてきた、この国ならではの聴き方なのでしょう。蟋蟀在戸の宵、もし戸口のあたりからかぼそい音が聞こえてきたら、それは晩秋の虫の、最後のひと節かもしれません。古人がそうしてきたように、しばし手を止めて、その声に耳をすませてみてください。
蟋蟀在戸5日間の歩き方
- 10月18日(日)上弦の月:南の空に半月の上弦の月がかかる宵。新しいことの下調べや暮らしの片づけにあてて、戸口に虫の声を聴きながら、秋の深まりを感じて。
- 10月19日(月)寅の日:金運にゆかりのある日とされます。財布や暮らしの道具を整え、ふくらみゆく月を見上げて、晩秋の夜気を味わいましょう。
- 10月20日(火)赤口:火に注意したい日。ふくらみかけた十日夜の月が南の空に。日が落ちたら、野菊やすすきの飾りで秋の宵をしつらえて。
- 10月21日(水)十一日月へ:月が十三夜へと近づく宵。親しい人と虫の音に耳をすませる、静かなひとときを過ごしてみてください。
- 10月22日(木)己巳の日:弁財天にゆかりのある吉日。芸事や金運の願いごとに。鳴きおさめてゆく虫の声に、過ぎゆく秋を惜しんでみてください。
福カレンダー編集部の蟋蟀在戸ノート ─ 三つのおすすめ
- 虫の音に耳をすます:晩秋の虫の声は、年内でこれが鳴きおさめ。戸口や軒下からかすかに届くひと節に、しばし心を遊ばせてみてください。冬を前にした命の余韻が、そこにあります。
- 満ちゆく月を見守る:上弦から十日夜、十二日月へ――月が夜ごとに丸みを増していく5日間です。一日ずつ空を見上げ、欠けた月から満ちる月への移ろいを、自分の目で追ってみましょう。
- 古歌の虫を訪ねる:『枕草子』や古今集の「きりぎりす」が今のこおろぎだったという名の入れ替わり。一首の古歌を開いて、千年前の人がどんな虫の声を聴いていたか、思いをめぐらせてみてください。
戸口に虫が鳴きおさめ、月が満ちてゆく5日間。次の候からは、節気が寒露を終えて霜降(そうこう)へと移り、その初候は「霜始降(しもはじめてふる)」。野にはじめて霜が降りる候とともに、秋はいよいよ終わりへと近づいていきます。
参考
- 国立天文台 暦計算室「暦象年表」(寒露=太陽黄経195度の定義および2026年10月の節気・月相)
- 略本暦(明治7年改暦)における寒露末候「蟋蟀在戸」、秋分次候「蟄虫坏戸」との対照
- 「きりぎりす」と「こおろぎ」の名の入れ替わり(万葉集・古今和歌集)、『枕草子』『源氏物語』に見る虫の音の文化、虫の声を聴く日本の感性
- 福カレンダー暦マスターデータ(2026年10月の六曜・月相・寅の日・己巳の日・旧暦)
参考文献・出典
- 暦計算室— 国立天文台 暦計算室(参照: 2026-06-03)
- 七十二候 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-06-03)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-06-03)
2026年の暦カレンダー
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
- 二十四節気
- 自然暦
十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
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