七十二候 楓蔦黄 2026 ─ 11月2日〜6日、霜降末候 楓と蔦が燃えるように色づく5日

この記事でわかること
霜降末候『楓蔦黄(もみじつたきばむ)』は2026年11月2日〜6日。楓や蔦が黄に紅に染まり、紅葉が最盛期を迎えて霜降を締めくくる頃を読み解きます。気温差が色を冴えさせる紅葉の仕組み、中国の『蟄虫咸俯』を日本が燃える紅葉へ書き換えた略本暦の選び、万葉の『黄葉』、文化の日と観楓の文化、そして次の立冬への橋渡しにも触れます。
目次
時雨(しぐれ)がひとしきり通りすぎた霜降(53候・霎時施)を承け、暦は霜降を締めくくる末候へと進みます。**2026年11月2日(月)から11月6日(金)までの5日間が、七十二候の第五十四候「楓蔦黄(もみじつたきばむ)」**です。「楓(もみじ)蔦(つた)黄(き)ばむ」――楓や蔦の葉が黄に染まり、紅に燃え、山も野も錦のいろどりに包まれる頃を指しています。
私(野分蓮)は福カレンダー編集部で二十四節気・七十二候を担当しています。楓蔦黄は、秋がその色彩のきわみに達する候です。じつはこの候、もとをたどると中国の宣明暦では「蟄虫咸俯(ちっちゅうことごとくふす)」――虫がことごとく土にもぐり、頭を伏せて冬ごもりに入る、という候でした。それを明治の略本暦は、燃えあがるような紅葉の一語へと大胆に書き換えています。地の下へ姿を消す虫ではなく、天をあおぐ枝々のあざやかな色を選びとった――そこには、四季のうつろいを「色」として愛でてきた、この国ならではのまなざしがにじんでいます。土にこもる虫の静けさよりも、散りぎわに最も冴える葉の輝きを。同じ自然のひとこまでも、どこに季節の本質を見るかで、暦の言葉はこれほど変わるのです。
2026年の楓蔦黄は、下弦をすぎた月が次第に細りながら明け方の空へ移ってゆく5日間。昼は紅葉が陽に透けて燃え、夜は冷えこみがいっそう増して、葉の色をさらに深めていきます。これで霜降の三候はすべて終わり、暦はいよいよ冬の入り口――立冬へと歩を進めます。
楓蔦黄とは ─ 楓と蔦が色づきはたす、霜降の末候
楓蔦黄は、太陽黄経がおよそ220度に達した霜降の最後の候です。霜降とは、野山にはじめて霜が降り、朝の冷えこみが目に見えるかたちで現れる頃。その霜降を締めくくるこの候では、冷えこみが日ごとに深まり、木々の紅葉がいよいよ最盛期を迎えます。
なぜ葉は色づくのでしょうか。緑の葉が緑であるのは、光合成をになう色素クロロフィル(葉緑素)のはたらきによるものです。ところが秋が深まり気温が下がってくると、木は冬を越すために葉を落とす準備にかかり、葉柄のつけ根に「離層」という仕切りをつくります。すると葉のなかのクロロフィルが分解され、それまで緑に隠れていた黄色い色素カロテノイドが表に現れて、葉は黄ばんでいきます。これが、銀杏や蔦の一部に見られる「黄葉」の正体です。一方、楓に代表される「紅葉」では、離層によって葉にとどめられた糖から、アントシアニンという赤い色素があらたに生みだされます。だからこそ、昼は暖かく光合成で糖がたまり、夜は冷えこんで糖が枝へ流れにくい――そんな昼夜の寒暖差が大きいほど、紅はあざやかに冴えるのです。山の紅葉が里より美しいのも、谷あいの朝が冷えこむこの候に色づきが極まるのも、すべてこの仕組みによります。
2026年の暦配置 ─ 下弦から有明へ、細りゆく月
2026年の楓蔦黄(11月2日〜6日)は、下弦をすぎた月が南の空からしだいに位置を変え、明け方に残る有明の月へと細っていく5日間です。
| 日付 | 六曜 | 月相 | 暦注・行事 |
|---|---|---|---|
| 11月2日(月) | 先勝 | 下弦の月 | ─ |
| 11月3日(火) | 友引 | 有明月 | 文化の日・巳の日 |
| 11月4日(水) | 先負 | 有明月 | 一粒万倍日 |
| 11月5日(木) | 仏滅 | 有明月 | ─ |
| 11月6日(金) | 大安 | 暁の月 | ─ |
初日の11月2日(月)には、下弦をこえてやや欠けた月が、夜半から明け方にかけて空にのぼります。月はそこから夜ごとに細り、11月3日(火)からは有明の月となって、深夜すぎにようやく顔を出すようになります。期間の終わりの6日には暁の月となり、夜明けの空に白く溶け残る細い月が、紅葉の梢ごしにのぞめるはずです。そして暦のうえで見のがせないのが、11月3日(火)の文化の日。「自由と平和を愛し、文化をすすめる」日として定められた祝日で、芸術の秋・紅葉の盛りとちょうど重なります。期間中には縁起のよい吉日や、暦のうえでめでたい日も含まれますが、日ごとの六曜・吉日は、上の表をご覧ください。月のかたちと暦注を手がかりに、深まりきった秋の一日ずつを味わってみてください。
紅葉のいろどり ─ 色を生む寒暖差と、それを愛でた人々
楓蔦黄を読み解くうえで、いちばんの主題はやはり「色」です。先に紅葉の仕組みにふれましたが、ここで思い起こしたいのは、その色をただ眺めるにとどまらず、わざわざ野山へ分け入って愛でる文化を、日本人が古くから育んできたということです。
紅葉を観賞することを「紅葉狩り(もみじがり)」、また「観楓(かんぷう)」といいます。花を「花見」と呼ぶのに対し、紅葉には「狩り」の語があてられているのが面白いところ。もともと貴族が野や山に出て草花を求めることを「狩り」と称したなごりとも、枝を手折って手にとり愛でたことに由来するとも伝えられます。平安の頃にはすでに、紅葉の名所をたずねて宴をひらき、歌を詠みかわす雅びな遊びがおこなわれていました。『源氏物語』や『古今和歌集』にも、龍田川の紅葉や山々の錦をうたった歌は数えきれません。秋の山が一斉に色づくさまを「錦」になぞらえる感性は、まさにこの候のためにあるような言葉づかいです。
「黄葉」と書いた万葉びと
いま私たちは秋の色づきをふつう「紅葉」と書きますが、もっとも古い時代には、その表記が違っていました。『万葉集』の歌人たちは、秋の葉のいろどりをおおむね「黄葉」と書き、「もみち」と読んだのです。「秋山の 黄葉(もみち)を茂み 惑(まと)ひぬる 妹(いも)を求めむ 山道知らずも」――こうした歌に見えるように、当時は赤よりもむしろ黄の色感が言葉の中心にありました。
これは、万葉の時代に日本人がとりわけ親しんだのが、楓よりも黄ばむ木々――銀杏や柞(ははそ)、蔦のたぐいであったことの名残ともいわれます。やがて時代がくだり、楓の燃えるような赤が紅葉の代表として愛されるようになると、表記も「紅葉」へと移っていきました。「楓蔦黄」という候の名に、楓の紅と、蔦の黄とが並んで置かれているのは、偶然ではないのかもしれません。赤に染まる楓と、黄にうつろう蔦――二つの色を一語に収めたこの候は、「黄葉」から「紅葉」へと言葉を移してきた、千年あまりのいろどりの歴史を、そっと畳みこんでいるようにも思えるのです。
楓蔦黄5日間の歩き方
- 11月2日(月)下弦の月:欠けてゆく月が明け方の空に残る朝。色づきはじめた近くの並木や庭木をゆっくり見上げて、紅葉の盛りへ向かう季節のうつろいを感じてみてください。
- 11月3日(火)文化の日:芸術の秋にふさわしい祝日。美術館や紅葉の名所へ足をのばし、深まりゆく秋の色と、人の手が生んだ美にふれる一日に。
- 11月4日(水)一粒万倍日:まいた一粒が万倍に実るとされる吉日。新しい習いごとや、来年へ向けた小さな種まきにふさわしい日です。色づく木々のもとで、これからの計画を心に描いてみましょう。
- 11月5日(木)仏滅:ことを控えめにしたい日。落ち葉を掃き、暮らしの片づけにあてて、有明の月がのぼる夜明けの澄んだ空気を味わってみてください。
- 11月6日(金)大安:ものごとに縁起のよい日。霜降の最後の一日、燃えるような紅葉を心ゆくまで愛でて、次にめぐりくる立冬を静かに迎える支度をととのえましょう。
福カレンダー編集部の楓蔦黄ノート ─ 三つのおすすめ
- 紅葉のいろどりを訪ねる:楓蔦黄は、紅葉が最盛期を迎える候。近くの公園でも、遠くの山でもかまいません。赤に燃える楓と、黄に染まる蔦――二つの色を見くらべながら、葉ごとの色づきの違いに目をとめてみてください。
- 寒暖差を肌で感じる:紅葉の冴えは、昼夜の冷えこみの差が生むもの。日中のあたたかさと、朝晩のひんやりとした空気を一日のなかで感じ分けると、なぜいま葉が美しいのかが、からだで腑に落ちるはずです。
- 「黄葉」の古歌を開く:万葉の人々は秋の色を「黄葉」と書きました。一首の古歌をひもとき、千年前の歌人がどんないろどりを見ていたのか、思いをめぐらせてみてください。言葉のうつろいが、紅葉をいっそう奥ゆかしく感じさせてくれます。
楓と蔦が色づきはたし、紅葉が盛りをきわめる5日間。これで霜降の三候は終わり、次の候からは、節気が霜降を閉じて立冬(りっとう)へと移ります。その初候は「山茶始開(つばきはじめてひらく)」――山茶花(さざんか)がはじめて咲く候とともに、暦はいよいよ冬の門口をくぐっていきます。燃えるような秋のいろどりを胸に納めて、冬のはじまりを迎えましょう。
参考
- 国立天文台 暦計算室「暦象年表」(霜降=太陽黄経210度・楓蔦黄のおよそ220度の定義および2026年11月の節気・月相)
- 略本暦(明治7年改暦)における霜降末候「楓蔦黄」、もとの宣明暦「蟄虫咸俯」との対照、次節気・立冬初候「山茶始開」への接続
- 紅葉・黄葉の発色の仕組み(クロロフィル分解とカロテノイド、離層とアントシアニン生成、昼夜の寒暖差)、紅葉狩り・観楓の文化、『万葉集』に見る「黄葉(もみち)」の表記、文化の日の由来
- 福カレンダー暦マスターデータ(2026年11月の六曜・月相・巳の日・一粒万倍日・旧暦)
参考文献・出典
- 暦計算室— 国立天文台 暦計算室(参照: 2026-06-03)
- 七十二候 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-06-03)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-06-03)
2026年の暦カレンダー
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
- 二十四節気
- 自然暦
十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
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