亥の子 2026年11月9日 ─ 旧暦十月の初亥は8年連続の仏滅。西日本の収穫祭と炬燵開きを暦で読む

この記事でわかること
2026年の亥の子(いのこ)は11月9日(月)。旧暦十月一日・丁亥の日で、六曜は仏滅、暦注は大明日と三隣亡が重なります。旧暦十月の初亥が2021年から2028年まで8年連続で仏滅になる暦のしくみ、亥の子餅と炬燵開き、亥の子突きと十日夜の東西比較まで、野分蓮が読み解きます。
目次
亥の子 2026年11月9日 ─ 旧暦十月の初亥は8年連続の仏滅
亥の子とは、旧暦10月の最初の亥の日、またはその日に行われる年中行事である。玄猪、亥の子の祝い、亥の子祭りともいう。 ── Wikipedia「亥の子」より
2026年の亥の子は**11月9日(月)**です。旧暦では十月一日、日の干支は丁亥(ひのとい)。西日本の農村で子どもたちが石や藁束で地面を打ち、家々では亥の子餅を食べ、炬燵や炉に火を入れ始める──そんな晩秋の節目の日です。
ところが福カレンダーの暦データでこの日を開くと、六曜は仏滅、暦注には三隣亡まで並んでいます。無病息災と子孫繁栄を願う祝いの日が、なぜ「凶」の印で埋まっているのか。しかも調べてみると、旧暦十月の初亥は2021年から2028年まで8年続けて仏滅でした。干支と暦の研究家・野分蓮が、この不思議な重なりを糸口に、亥の子という行事を読み解いていきます。
亥の子とは ─ 餅を食べ、石で大地を搗く晩秋の祭り
亥の子の源流は、古代中国の「亥の月亥の日に穀物を混ぜた餅を食べると病を除く」という俗信にあるとする説が有力です。これが平安時代の宮中に取り入れられ、「玄猪(げんちょ)」の儀として定着しました。『源氏物語』にも亥の子餅が登場するとされ、千年以上前から貴族の暮らしに根づいた行事だったことがうかがえます。
その後、行事は武家へ、さらに農村へと広がり、意味を少しずつ変えていきました。現在の亥の子に重なっている願いを整理すると、おおよそ次の三つになります。
- 無病息災 ─ 亥の刻(夜9時〜11時ごろ)に餅を食べて冬の病を除く(中国由来・宮中の玄猪)
- 子孫繁栄 ─ 猪が多産であることにあやかる(武家社会で強まったとされる意味)
- 収穫感謝 ─ 稲刈りを終えた田の神を送り、翌年の豊作を願う(農村の収穫祭)
Wikipediaは、亥の子が主に西日本、とりわけ九州から中国地方を中心に知られる行事だと記しています。地面を搗くのは田の神を天や山へ返すためだとする地方もあり、宮中の餅の儀礼と、田の神信仰という土着の収穫祭が一つの日に溶け合ったのが、いまの亥の子の姿だと考えられます。
2026年の亥の子は11月9日 ─ 三度巡る亥の日を暦で読む
亥の日は12日ごとに巡るため、旧暦十月にはふつう二度か三度、亥の日が訪れます。地域によっては一の亥・二の亥・三の亥と呼び分け、どの亥の日に行事をするかが違います。2026年の旧暦十月の亥の日を、福カレンダーの暦データで並べてみました。
| 新暦 | 旧暦 | 日干支 | 六曜 | 吉日 | 凶日 | 十二直 | 日家九星 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 11月9日(月) | 十月一日 | 丁亥 | 仏滅 | 大明日 | 三隣亡 | 建 | 一白水星 |
| 11月21日(土) | 十月十三日 | 己亥 | 仏滅 | ─ | 三隣亡 | 建 | 七赤金星 |
| 12月3日(木) | 十月二十五日 | 辛亥 | 仏滅 | 大明日 | 三隣亡 | 建 | 四緑木星 |
一般に「亥の子」と呼ばれるのは、最初の亥の日である11月9日です。この日は旧暦の朔日(ついたち)、つまり新月の日にもあたります。月明かりのない夜に、亥の刻の餅を囲む。2026年の亥の子は、そんな静かな夜になりそうです。
表を眺めると、もう一つ気づくことがあります。三日とも十二直が**「建(たつ)」**なのです。十二直の「建」は、月の十二支と日の十二支が一致する日に置かれます。節切りの暦では立冬(2026年は11月7日)から大雪の前日(12月6日)までが亥の月なので、その期間の亥の日は必ず「建」になります。「建」は万物が建ち始める日とされ、建の日の意味を知ると、亥の子が冬支度の始まりに置かれていることが腑に落ちるはずです。
なぜ仏滅ばかりなのか ─ 8年連続を生む暦のしくみ
ここからが本題です。旧暦十月の初亥を、10年分さかのぼって並べてみます。
| 年 | 初亥(新暦) | 旧暦 | 日干支 | 六曜 |
|---|---|---|---|---|
| 2020年 | 11月16日 | 十月二日 | 癸亥 | 大安 |
| 2021年 | 11月11日 | 十月七日 | 癸亥 | 仏滅 |
| 2022年 | 10月25日 | 十月一日 | 辛亥 | 仏滅 |
| 2023年 | 11月13日 | 十月一日 | 乙亥 | 仏滅 |
| 2024年 | 11月7日 | 十月七日 | 乙亥 | 仏滅 |
| 2025年 | 11月26日 | 十月七日 | 己亥 | 仏滅 |
| 2026年 | 11月9日 | 十月一日 | 丁亥 | 仏滅 |
| 2027年 | 11月4日 | 十月七日 | 丁亥 | 仏滅 |
| 2028年 | 11月22日 | 十月七日 | 辛亥 | 仏滅 |
| 2029年 | 11月17日 | 十月十二日 | 辛亥 | 先負 |
2021年から2028年まで、きれいに8年連続の仏滅。けれど2020年は大安、2029年は先負です。「亥の子は必ず仏滅」と言い切ることはできません。では、なぜこれほど偏るのでしょうか。仕掛けは三段に分けて説明できます。
- 六曜は旧暦の日付で決まる:旧暦の月と日を足して6で割った余りで六曜が決まり、十月なら一日・七日・十三日・十九日・二十五日が仏滅になります
- 同じ月の亥の日は同じ六曜になる:亥の日は12日周期、六曜は6日周期。12は6で割り切れるので、ひと月の中の亥の日はすべて同じ六曜に揃います。2026年の三度の亥の日が全部仏滅なのはこのためです
- 翌年も揃うかは旧暦一年の長さ次第:旧暦十月一日から翌年の十月一日までが354日か384日(閏月のある年)なら、どちらも6で割り切れるため、初亥の六曜は翌年に持ち越されます。355日の年が挟まると並びがずれます。2020年から2021年、2028年から2029年の切り替わりは、いずれも355日の年でした
つまり8年連続の仏滅は、構造的な必然ではなく、旧暦の一年が354日と384日だけで続いた「暦の巡り合わせ」です。そもそも六曜が暦に広く載るようになったのは江戸時代以降とされ、平安の宮中に始まる亥の子の由来とは何の関係もありません。亥の子の日取りは干支で決まり、六曜はあとから重なっただけ。仏滅を理由に亥の子餅を控える必要はない、というのが野分蓮の見立てです。
一方の三隣亡は、本当に年によって変わります。三隣亡は節切りの月と日の十二支の組み合わせで決まる凶日で、亥の月(立冬から大雪の前日まで)では亥の日が三隣亡になります。旧暦十月の亥の日でも、立冬より前に来れば戌の月に属するので三隣亡には当たりません。2026年は三度の亥の日がすべて立冬後なので三日とも三隣亡ですが、上の表の2022年10月25日(立冬は11月7日)や2027年11月4日(立冬は11月8日)の初亥は戌の月にあたり、三隣亡ではありません。三隣亡は建築ごとの凶日とされる暦注なので、家の上棟や地鎮祭を亥の子の時期に考えている場合は、別の日を選ぶのが無難です。
亥の子餅と炬燵開き ─ 火伏せの日に暖房を出す理由
亥の子の日の楽しみといえば、亥の子餅です。猪の子(うり坊)に見立てて楕円に形づくり、縞模様をあしらったものが和菓子店に並ぶのも、毎年10月下旬から11月にかけて。古くは大豆・小豆・ささげ・胡麻・栗・柿・飴の七種の粉を入れた餅だったとされます。
そしてもう一つ、亥の子は炬燵開き・炉開きの日でもありました。亥は五行で「水」に配されるため、亥の月の亥の日に火を使い始めるとその冬は火事に遭わない、と信じられてきたのです。江戸時代には、武家が初亥に、町人が二番目の亥の日に炬燵や炉を開いたと伝えられています。茶の湯の世界でも、風炉から炉へ切り替える「炉開き」を11月の亥の日に行い、亥の子餅を添える習わしが受け継がれています。
現代の暮らしに置き換えるなら、亥の子は「暖房を出す日」の目安になります。
- 炬燵・ストーブの点検:コードの傷みや灯油の残り具合を確かめるのは、まさに火伏せの知恵の現代版です
- 衣替えの仕上げ:立冬から亥の子までの数日間で、冬物への入れ替えを終わらせる
- 亥の刻の小さな団らん:夜9時以降に亥の子餅やおはぎを家族で分け合う
2026年は11月9日が月曜日なので、炬燵を出す作業を前日の週末にすませ、亥の子当日は夜に餅を味わうだけにする、という段取りも現実的です。武家にならって初亥に開くか、町人にならって二の亥の11月21日(土)に開くか。暦を口実に、家族で冬支度の日を決めてみるのも一興でしょう。
亥の子突きと十日夜 ─ 西と東、大地を打つ収穫祭
亥の子の夜、西日本の子どもたちは縄をつけた「亥の子石」を手に家々を回り、亥の子唄を歌いながら地面を搗きます。香川県の資料によれば、丸亀市本島町の「福田の亥の子」では、11月最初の亥の日に主に小学生が三社神社に参拝してから、各家の庭や辻で石を搗いて回ります。家々は餅や菓子でもてなし、石が地面に残した丸いくぼみは、かつて冬の風物詩でした。
藁束を使う地域もあります。佐賀県唐津市七山の「大白木の亥の子さま」は、2023年3月22日に国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選ばれました。
地区の子どもたちが稲藁の束「ワラトビ」を頭にかぶって家々を回り、その年の収穫への感謝と子どもの無事な成長を祝う。 ── 文化遺産オンライン「大白木の亥の子さま」(要約)
この藁で地面を打つ姿は、東日本の「十日夜(とおかんや)」とよく似ています。十日夜は旧暦十月十日の行事で、2026年は11月18日。子どもたちが藁鉄砲で地面を叩き、田の神を送り、作物を荒らすモグラを追い払います。Wikipediaも、藁鉄砲を使う亥の子と十日夜の類似を指摘しています。
| 比較 | 亥の子(西日本) | 十日夜(東日本) |
|---|---|---|
| 日取り | 旧暦十月の亥の日 | 旧暦十月十日 |
| 2026年 | 11月9日(月) | 11月18日(水) |
| 地面を打つ道具 | 亥の子石・藁束 | 藁鉄砲 |
| 食べもの | 亥の子餅 | 餅・団子(地域による) |
| 願い | 無病息災・子孫繁栄・収穫感謝 | 田の神送り・収穫感謝・モグラ除け |
十日夜の月は、十五夜・十三夜と並ぶ「三月見」の締めくくりともされます。秋の月見の流れは十五夜と十三夜の違いにまとめているので、あわせて読むと晩秋の行事の地図が一枚につながります。東西で日取りも道具も違うのに、収穫を終えた大地を打って田の神を送るという骨格は同じ。日本列島の稲作文化が、同じ問いに二通りの答えを出したようにも見えます。
野分蓮の暦メモ ─ 2026年の亥の子を楽しむために
最後に、2026年の亥の子まわりの暦を時系列で整理しておきます。
- 11月7日(土)立冬:節切りの亥の月が始まる。冬物への入れ替えはここから
- 11月9日(月)亥の子(初亥):旧暦十月一日・新月。亥の刻に亥の子餅を
- 11月18日(水)十日夜:東日本の収穫祭。旧暦十月十日
- 11月21日(土)二の亥:町人の炬燵開きの日にならうなら、週末のこの日
- 12月3日(木)三の亥:旧暦十月最後の亥の日
六曜の仏滅は、亥の子の由来とは無関係にあとから重なったものです。暦は層になった記録で、古い層と新しい層を見分けられると、「凶の日なのに祝う」という矛盾は矛盾でなくなります。千年前の宮中の餅、江戸の火伏せ、村の子どもたちの石搗き。その全部が11月9日という一日に積み重なっていると思えば、亥の子餅のひと口にも少し違う味わいが生まれるのではないでしょうか。
参考
- 亥の子 ─ Wikipedia
- 福田の亥の子(丸亀市)─ 香川県
- 大白木の亥の子さま ─ 文化遺産オンライン(文化庁)
- 六曜・暦注・十二直・日家九星・旧暦:福カレンダー暦データ(国立天文台の暦要項に準拠した天文計算)
参考文献・出典
- 年中行事 (Wikipedia 日本語版)— Wikipedia(参照: 2026-05-16)
- 文化財オンライン (文化庁)— 文化庁(参照: 2026-05-16)
- 日本の暦 -国立国会図書館-— 国立国会図書館(参照: 2026-05-16)
2026年の暦カレンダー
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野分 蓮干支と暦の研究家
- 十干十二支
- 二十四節気
- 自然暦
十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
この編集者の記事を見る →この記事について
本記事は一般的な暦の知識や伝統的な解釈に基づいています。 占いの結果を保証するものではありません。最終的な判断はご自身でお願いします。
免責事項を読む →福カレンダーでは、暦に関するコンテンツを正確かつ分かりやすくお届けするよう努めています。
編集方針について →参考情報:暦注・民俗資料、公的機関の暦情報を参考に編集部が整理しています。
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