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旬野 椿の編集者ページへ旬野 椿/ 旬と食の歳時記
春の節気4月19日〜5月4日頃

穀雨の食べ物・旬の食材ガイド

穀雨(こくう)

穀物を潤す春の雨、筍の最後の旬

穀雨の旬の食材

穀雨は二十四節気のひとつ。暦としての意味や過ごし方は穀雨の意味と過ごし方 →をご覧ください。

穀雨の旬の食材

たけのこ(筍)

穀雨が筍シーズンの終盤。「雨後の筍」の語源でもある。

おすすめの食べ方:若竹煮、筍ご飯、姫皮の吸い物
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あさり(浅蜊)

産卵前で身が太る春が旬。潮干狩りの季節でもある。

おすすめの食べ方:酒蒸し、味噌汁、ボンゴレ
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山椒(山椒)

新芽(木の芽)が出る時期。爽やかな香りは春の香辛料。

おすすめの食べ方:木の芽和え、ちりめん山椒、うなぎの薬味
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グリーンピース

さやえんどうが成熟して実が膨らむ頃。豆ご飯の季節。

おすすめの食べ方:豆ご飯、卵とじ、ポタージュ
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縁起の良い食べ物・行事食

若竹煮

たけのことわかめの煮物。「竹の子」は成長・発展を象徴し、春の恵みへの感謝を表す。

穀雨の旬|筍・山椒・新茶で味わう春の恵み

四月の雨は、土の底まで沁みていく。湿った竹林に足を踏み入れると、昨日まで何もなかった地面に、小さな筍が頭をもたげている。穀雨のころ、大地は食卓を静かに、しかし確かに満たしてくれます。


穀雨と食の関係|雨生百穀という恵み

穀雨(こくう)は二十四節気の第6番目、春最後の節気です。その名の由来は「雨生百穀(うしょうひゃっこく)」――百の穀物を生む雨。4月20日前後から5月初旬にかけて降る柔らかな春雨は、蒔かれた種子を芽吹かせるだけでなく、山野の食材を一気に太らせます。

この時期の雨は、冬の冷たさを完全に脱ぎ捨てた「温かい雨」です。土中の温度が上がり、微生物が活発になり、植物の根が水をぐんぐん吸い上げる。竹林では地下茎が勢いを増して筍を押し上げ、山椒の若葉が弾けるように開き、茶畑の新芽は日ごとに柔らかく伸びていきます。

穀雨の暮らしと農事暦でも触れられている通り、この雨は農家にとっての「種まき安全宣言」。同時に、台所にとっては旬の食材が最も充実する、春の黄金期でもあるのです。

桜が散り、藤が咲き、野山が萌黄色から深い緑へと移ろうこの季節。スーパーの青果売り場を歩けば、土つきの筍が山積みになり、透明なパックに詰められた山椒の葉が目に飛び込んできます。穀雨の恵みは、日常の買い物の中にも確かに届いているのです。


穀雨に味わいたい旬の食材

筍(たけのこ)|大地が押し上げる春の力

穀雨の食材を一つだけ挙げるなら、迷わず筍を選びます。

朝掘りの筍を手に取ると、切り口からは甘い水がにじみ、皮を剥くごとに象牙色の身が現れます。掘りたての筍にはえぐみがほとんどなく、生のまま薄切りにして刺身で食べられるほどです。時間が経つにつれアクが強くなるため「掘ったらすぐに茹でろ」と言われますが、これは筍のチロシンが酸化してえぐみに変わるためです。

下処理のコツは至ってシンプル。先端を斜めに切り落とし、皮に縦の切れ目を入れたら、米ぬかと鷹の爪を加えた水で40分ほど茹でるだけ。竹串がすっと通ったら火を止め、そのまま冷まします。急がず冷ますことでアクが抜け、身がふっくらと仕上がります。

若竹煮は、この時期だけの一椀。出汁を含んだ筍のしゃきっとした歯ごたえに、わかめのとろりとした柔らかさが寄り添います。筍ごはんは炊き上がった瞬間に蓋を開けると、湯気とともに竹林の香りが立ち昇り、春が炊飯器の中にあると実感させてくれます。


山椒(さんしょう)|痺れる香りが春を締めくくる

筍と山椒は、昔から「春の夫婦」と呼ばれるほどの名コンビです。

穀雨の頃に出回るのは「花山椒」と「実山椒」の二種。花山椒は蕾がほころんだ直後の、ほんの数日しか出回らない貴重品です。指先でそっと潰すと、舌先がしびれるような鮮烈な芳香が弾けます。筍の煮物の仕上げにひとつまみ散らすだけで、料理の格が一段上がるのは、この香気のなせる業です。

実山椒はもう少し後、五月にかけてが盛り。枝から丁寧にしごき取った青い実を塩茹でし、ちりめんじゃこと甘辛く炊いた「ちりめん山椒」は、京都の台所から全国に広まった保存食の傑作です。白いごはんの上に乗せれば、山椒の痺れとちりめんの旨味が口の中で追いかけっこをするように広がります。

山椒は日本原産の香辛料であり、縄文時代の遺跡からも発見されています。「和のスパイス」の元祖は、穀雨の恵みの雨を浴びて、今年も変わらず芽吹いています。


新茶(しんちゃ)|八十八夜が運ぶ旨味の一滴

穀雨の末候、立春から数えて88日目にあたる「八十八夜」は、2026年は5月2日です。この日に摘んだ茶葉は縁起がよいとされ、「八十八夜の別れ霜」という言葉が示す通り、遅霜の心配がなくなる季節の節目でもあります。

新茶の魅力は、その圧倒的な旨味です。冬の間にじっくりと蓄えられたテアニン(アミノ酸の一種)が凝縮されており、二番茶・三番茶に比べてカテキンの渋味が少なく、まろやかで甘い。湯呑みに注いだ新茶の水色(すいしょく)は、明るく透き通った若草色で、立ち上る香りには青々しい清涼感があります。

新茶を淹れるコツは、湯温をやや低め(70〜80度)にすること。沸騰直後の熱湯では旨味のテアニンより渋味のカテキンが先に溶け出してしまいます。湯冷ましで温度を下げ、一分ほどゆっくり蒸らしてから注ぐと、新茶本来の甘味が引き出されます。

立夏に向かう季節の変わり目に、新茶の一杯は春の名残と夏の予感をひとつの湯呑みに閉じ込めてくれるのです。


蕗(ふき)|ほろ苦さに春の名残を聞く

穀雨の蕗は、春先の蕗の薹(ふきのとう)から成長した茎の部分。葉柄を板ずりして塩茹ですると、翡翠のような緑が鮮やかに立ちます。

蕗の持ち味は、あの独特のほろ苦さ。甘いものが溢れる現代の食卓にあって、この「苦味」がどれほど貴重かは、一口食べれば分かります。苦味は本来、体が毒を避けるための味覚シグナルですが、春の山菜の苦味には、冬に溜まった老廃物を排出する「春の解毒」の働きがあると、古来の養生訓は教えています。

保存食としての「きゃらぶき」は、蕗を醤油とみりんでじっくり煮詰めたもの。飴色に輝く蕗は繊維がしっかりと残り、噛むほどに旨味が広がります。常備菜として冷蔵庫に入れておけば、ごはんの友としてもお茶請けとしても、穀雨の味を長く楽しめます。


鰹(かつお)|初鰹は江戸の粋、令和の贅沢

目には青葉 山ほととぎす 初鰹 ――山口素堂

この句に詠まれた通り、初鰹は視覚(青葉)、聴覚(ほととぎす)と並ぶ春の歓びの一つとして、江戸の人々に愛されました。黒潮に乗って北上する鰹は、穀雨のころに房総・相模沖に到達します。秋の「戻り鰹」が脂を蓄えてねっとりとしているのに対し、初鰹は身が引き締まり、赤身の鮮烈な旨味が際立ちます。

柵取りした初鰹の表面を強火で炙り、氷水にさっとくぐらせたたたき。薬味には穀雨の旬である新生姜やみょうが、そしてたっぷりの青葱を添えます。ポン酢を回しかけ、一切れを口に運ぶと、炙った皮目の香ばしさ、赤身の清々しい酸味、薬味の辛味が一体となって、春の海の記憶が蘇ります。


穀雨の食卓|旬を活かした一汁三菜

穀雨の旬を一つの食卓にまとめるなら、こんな献立はいかがでしょうか。

構成料理旬の食材
飯筍ごはん筍
汁若竹汁(筍と わかめの吸い物)筍・花山椒
主菜初鰹のたたき 薬味添え鰹・新生姜
副菜蕗の青煮蕗
副々菜ちりめん山椒実山椒
食後新茶新茶

一汁三菜のすべてに穀雨の旬が入る。これは贅沢なことのようでいて、実は暦に沿った暮らしの中では自然なことです。旬の食材は最も手に入りやすく、最も安く、最も美味しい。暦を知ることは、無理なく豊かな食卓を整える知恵でもあるのです。


食と暦の知恵|旬を食べるということ

「身土不二(しんどふじ)」という言葉があります。「身体と土地は二つに分けられない」――その土地で、その季節に採れたものを食べることが、身体にとって最も自然である、という考え方です。

これは単なる精神論ではありません。穀雨の頃に旬を迎える食材には、季節の変わり目を乗り切るための栄養が詰まっています。筍の食物繊維は冬の間に鈍った腸の動きを活性化し、山椒の辛味成分サンショオールは胃腸の働きを促進します。新茶のテアニンは自律神経を整え、蕗のポリフェノールは抗酸化作用で疲れた身体を癒す。初鰹の良質なたんぱく質は、活動量が増える夏に向けた体力づくりの土台になります。

清明の旬では芽吹きの食材が中心でしたが、穀雨ではそれが一段と力強く成長した姿で食卓に届きます。そして立夏を迎えるころには、食卓の主役は春の名残から夏の走りへと移っていく。こうした移ろいを食で感じ取ることが、日本の暦とともに暮らすということなのだと思います。

旬のものを口にすると、身体がすっと受け入れるような感覚があります。それは「今、この身体が必要としているもの」を、暦がそっと教えてくれているのかもしれません。

穀雨の雨音を聞きながら、旬の恵みをいただく。それは何も特別なことではなく、この土地に生まれた私たちが何百年も続けてきた、ごく当たり前の営みです。今年の穀雨も、その一皿から始めてみませんか。

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旬野 椿

旬野 椿旬と食の歳時記

旬の食材と暦の関わりを、五感に訴える文章で届ける食の歳時記編集者。二十四節気に寄り添った食卓の提案から、旬の素材の選び方・保存法まで、暦を「食べる」楽しさを伝えている。

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