
6月1日の朝、通学路の風景が一変する。つい昨日まで濃紺の冬服を着ていた学生たちが、一斉に白いシャツ姿で歩いている――日本に暮らす人なら誰もが見覚えのあるこの光景は、千年以上の歴史を持つ暦の行事「衣替え」の名残です。なぜ6月1日なのか。旧暦と新暦の関係、地域による違い、そして衣替えに込められた開運の知恵を、暦の視点から読み解きます。
衣替えの始まりは、平安時代の宮中行事**「更衣(こうい)」**に遡ります。
当時の貴族社会では、衣服は季節を表す重要な文化的装置でした。『延喜式』(927年成立)には、旧暦4月1日に夏装束、旧暦10月1日に冬装束へと切り替える規定が記されています。さらに細かく見ると、宮中では年4回の衣替えが定められていました。
| 時期(旧暦) | 装束 | 特徴 |
|---|---|---|
| 4月1日〜5月4日 | 袷(あわせ) | 裏地付きの二枚仕立て |
| 5月5日〜8月末 | 単衣・帷子(ひとえ・かたびら) | 裏地なしの涼しい仕立て |
| 9月1日〜9月8日 | 袷 | 秋の短い移行期間 |
| 9月9日〜3月末 | 綿入れ | 綿を入れた防寒装束 |
注目すべきは、5月5日(端午の節句)や9月9日(重陽の節句)といった節句が衣の切り替え日になっていること。暦と衣服は、宮中文化の中で密接に結びついていたのです。
なお「更衣」という言葉は、天皇の着替えを手伝う女官の呼び名でもあります。清少納言の『枕草子』にも更衣の情景が綴られており、衣を替えることが季節を感じる大切な儀礼であったことがわかります。
現在の「6月1日・10月1日」という衣替えの日付は、明治政府の暦改革によって定まりました。
明治6年(1873年)、日本は太陰太陽暦(旧暦)から太陽暦(グレゴリオ暦)に切り替えました。このとき、旧暦4月1日の夏衣替えを新暦に置き換え、6月1日としたのです。同様に旧暦10月1日の冬衣替えは10月1日に移されました。
ただし、旧暦4月1日は新暦では5月上旬〜中旬にあたり、6月1日とは約1か月の差があります。これは政府が気候的な妥当性を考慮し、本州中部の体感に合わせて調整したためと考えられています。
二十四節気の観点から見ると、6月1日は小満(5月21日頃)と芒種(6月6日頃)の間にあたります。この時期、本州では気温が25度を超える日が増え、梅雨入り前の蒸し暑さが体感されはじめます。薄物への切り替えとして、理にかなった時期と言えるでしょう。
明治以降、軍服・官吏の制服・学校の制服がこの日付に従うようになり、やがて民間にも広まりました。現在でも多くの学校や企業が6月1日と10月1日を制服の切り替え日としています。
日本列島は南北に長く、気候差が大きいため、衣替えの時期は地域によって異なります。
| 地域 | 夏服への切り替え | 冬服への切り替え | 備考 |
|---|---|---|---|
| 沖縄県 | 5月1日 | 11月1日 | 亜熱帯気候のため1か月前倒し |
| 九州南部・四国南部 | 5月中旬〜6月1日 | 10月中旬〜11月1日 | 学校により異なる |
| 本州(太平洋側) | 6月1日 | 10月1日 | 全国標準 |
| 北海道 | 6月15日 | 9月15日 | 約半月遅れ・早め |
| 東北北部 | 6月上旬〜15日 | 9月下旬〜10月1日 | 地域差あり |
沖縄では、ゴールデンウィーク前後にはすでに最高気温が30度に達する日もあり、5月1日の衣替えは生活実感に即しています。一方、北海道の6月上旬はまだ最高気温が20度前後の日が多く、夏服への切り替えを急ぐ必要がありません。
近年は「クールビズ」(2005年〜)の普及により、企業の衣替えはよりゆるやかになっています。環境省が推奨する5月1日〜9月30日のクールビズ期間は、奇しくも沖縄の衣替えスケジュールとほぼ一致しています。
日本の暦の根底にある陰陽五行思想の観点から見ると、衣替えは単なる実用的な習慣にとどまりません。季節の「気」の切り替えという意味を持っています。
旧暦の夏衣替え(旧暦4月1日)は、立夏を過ぎて陽の気が本格的に満ちる時期にあたります。冬の「陰」から夏の「陽」へ。厚い衣から薄い衣への移行は、体をまとう「気の衣」を入れ替えることでもあると考えられてきました。
新暦6月1日は、芒種を目前に控え、梅雨に向かう季節の境目です。湿気を含む空気が流れ込み、自然界のエネルギーが大きく変わるこのタイミングで衣を替えることは、体と季節の気を同調させる行為とも言えます。
衣替えには、季節の衣服を入れ替えるだけでなく、不要な衣類を整理する機会という側面もあります。
風水の観点では、着なくなった衣類にはその時代の古い気が滞留するとされ、手放すことで空間の気の流れが改善されると考えられています。特に、以下のような衣類は見直しの対象です。

野分 蓮干支と暦の研究家
十干十二支・二十四節気・自然と暦の関わりを、歴史と科学の両面から掘り下げる研究家肌の編集者。古文書の記述と現代の気象データを突き合わせるような、知的好奇心を刺激する考察記事を得意とする。
この編集者の記事を見る →本記事は一般的な暦の知識や伝統的な解釈に基づいています。 占いの結果を保証するものではありません。最終的な判断はご自身でお願いします。
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衣替えのタイミングで「持ち物の棚卸し」を行うことは、収納スペースの確保という実用面だけでなく、心理的なリフレッシュ効果をもたらします。
五行思想では、季節ごとにふさわしい色が定められています。衣替えで新しい季節の色を取り入れることは、その季節の気を味方につける開運行動とされてきました。
| 季節 | 五行 | 象徴色 | 衣服への取り入れ方 |
|---|---|---|---|
| 春 | 木 | 青・緑 | 明るいグリーン、ミントカラー |
| 夏 | 火 | 赤・紫 | コーラルピンク、ラベンダー |
| 土用 | 土 | 黄 | クリーム、ベージュ |
| 秋 | 金 | 白・金 | オフホワイト、シャンパンゴールド |
| 冬 | 水 | 黒・紺 | ネイビー、チャコール |
6月の衣替えなら、夏の象徴色である赤系統や、梅雨の時期にちなんだ紫陽花のような青紫を一点取り入れてみるのもよいでしょう。
2026年の衣替え当日の暦を確認しておきましょう。
先勝は「先んずれば勝ち」の意味を持つ六曜で、午前中の行動が吉とされます。衣替えの衣類整理や、新しい季節の服を初めて着るといった行動は、できれば午前中に済ませるとよいでしょう。
壬申(みずのえさる)は、十干「壬」が水の陽、十二支「申」が金の気を持ち、**金生水(金が水を生む)**の相生関係にあります。流れを生み出す組み合わせで、衣類の入れ替えのような「循環」「更新」に適した日と読むこともできます。
理想は6月1日当日ですが、天候や予定によっては前後にずらしても構いません。暦的におすすめの日取りの目安は以下の通りです。
衣替えの基本は、次の季節の衣類を出し、前の季節の衣類をしまい、不要な衣類を手放すこと。3つの箱やスペースを用意して分類すると効率的です。
しまう衣類は、洗濯またはクリーニングで汚れを落としてから収納します。皮脂汚れは虫食いの原因になるため、一度でも着た服は必ず洗ってからしまいましょう。防虫剤は衣類の上に置き(成分は上から下へ拡散するため)、除湿剤を併用すると安心です。
出した夏服の中に、五行の考え方を参考に季節の色を一点加えるのがおすすめです。新しいハンカチやストール、靴下など、小物から取り入れると気軽に始められます。
すべて入れ替えたら、クローゼットの前で一呼吸。昔の人が衣替えを行事として行ったように、季節の切り替わりを意識する瞬間を持つことで、日常に小さなリズムが生まれます。
衣替えは、6月の年中行事の幕開けを告げる風習です。同じ月には芒種、入梅、夏至、夏越の祓と、季節の節目が次々にやってきます。梅雨の暦を意識しながら衣替えを行えば、蒸し暑い季節も暦の知恵とともに心地よく過ごせるでしょう。
また、衣替えで生じる「古い物を手放し、新しい気を取り入れる」という行為は、風水リセットの考え方とも通じています。ゴールデンウィークの住空間リセットの流れを受けて、6月は「身にまとうもの」のリセットを行う。そう考えると、春から夏への暮らしの移行が、暦のリズムの中で自然につながっていることに気づきます。
千年前の宮中貴族が装束を替えたとき、彼らは衣を通じて季節と自分の体を同調させていました。現代の私たちにとっても、クローゼットの中身を入れ替える半日は、暦が教えてくれる「季節の気を切り替える小さな儀式」なのかもしれません。
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