春日大社(奈良)2026 ─ 砂ずりの藤×神鹿×万葉植物園、世界遺産で読む五月の参拝

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近鉄奈良駅を出て、東へ。一の鳥居を抜けると、参道の両側に石燈籠が並びはじめる。三千近いとも言われるその列は、行けども行けども尽きる気配がない。やがて二の鳥居が現れ、また石段。視界の片隅に、鹿が四、五頭、草を食んでいる。観光客が手を伸ばすと、ゆっくりと顔を上げ、また食み続ける。
ここは春日大社(かすがたいしゃ)。神護景雲二年(西暦七六八年)に春日神四柱を勧請したのが始まりとされる、世界遺産「古都奈良の文化財」の一社である。福カレンダーが二〇二六年・午年の特集で関西エリアを掘る取材を進めるなかで、最後に残っていた一社。実際に歩いてみて、その「最後」の意味が分かった気がした。これは速度のある社ではない。千年以上の時間を重ねてきた杜(もり)のなかで、ゆっくり立ち止まることでしか入れない場所だ。
砂ずりの藤と神鹿の杜 ─ 春日山の麓に降りる五月の風
春日大社の御本殿前に、ひと幅の幕のように垂れ下がる藤の花がある。樹齢七百年を超えるとも伝わる「砂ずりの藤」。花房の長さがおよそ一メートル半に達し、地面の砂をすって(ずって)伸びることから、その名がついた。見頃は例年五月上旬。緑の社叢に朱塗りの社殿が映え、淡い紫の房が静かに揺れる景色は、奈良の春の象徴のひとつとされている。
藤は、かつて藤原氏の家紋であり、春日大社にとっては社の歴史そのものを表す花でもある。福カレンダーの藤の花と暦2026でも触れられているとおり、藤は万葉集にも繰り返し詠まれてきた花であり、この社の万葉植物園にも数多くの品種が植えられている。
砂ずりの藤の前に立つ参拝者の足元には、必ずと言っていいほど鹿がいる。春日大社の神使である鹿は、奈良公園一帯で千頭以上が暮らし、国の天然記念物「奈良のシカ」として保護されている。藤と鹿、緑と朱、千年を超える杜の静けさ──この四つが揃って初めて、春日大社の景色は完成する。
神護景雲二年の創建と春日神四柱 ─ 鹿島から飛来した武甕槌命の神話
社伝によれば、藤原氏の氏神として、奈良時代の神護景雲二年(七六八年)に春日神四柱を勧請したのが始まりとされる。それ以前にも背後にそびえる御蓋山(みかさやま)は神奈備(かんなび)として信仰されており、現在もなお禁足地として人の足を踏み入れることが禁じられている。
御祭神は四柱。第一殿に武甕槌命(たけみかづちのみこと)、第二殿に経津主命(ふつぬしのみこと)、第三殿に天児屋根命(あめのこやねのみこと)、第四殿に比売神(ひめがみ)。武甕槌命は常陸国の鹿島神宮(東国三社詣2026で詳述)から、白い鹿に乗って春日の地に降り立ったと伝わる。鹿が神の使いとされるゆえんは、ここにある。
旅河楓(福カレンダー編集部)が全国の社寺を取材するなかで気づいたのは、春日大社のように「神話」と「土地の風景」が地続きにある場所はそう多くないということだ。鹿島から飛来した白鹿の伝承は、ただの物語ではない。境内のどこを歩いても、その物語の続きとして鹿が歩いている。社伝が今も生きている、と表現するほかない。
万葉植物園と式年造替 ─ 千二百五十八年を貫く「常若」の思想
二の鳥居の手前に位置する萬葉植物園には、万葉集に詠まれたおよそ三百種の植物が四季を通じて咲き継がれている。五月初旬の藤の園では二十品種を超える藤が一斉に開き、淡い紫から濃い紫、さらに白や八重咲きまで、藤というひとつの花の奥行きを見せる。アヤメ、カキツバタ、ハナショウブが続いて咲く五月後半までは、植物園の表情がもっとも豊かな季節となる。
春日大社のもうひとつの特徴は、二十年ごとに社殿を修造する「式年造替」という制度である。最近では二〇一五年から二〇一六年にかけて第六十次が執り行われ、本殿の檜皮葺の屋根の葺き替えと装飾金具の修復が完了した。次回は二〇三六年に予定されている。社殿そのものを古びさせず、常に若々しく保つ──伊勢神宮の式年遷宮とも通じるこの思想は「常若(とこわか)」と呼ばれる。創建から千二百五十八年を数える杜が、今もなお新しい木の香りを失わない理由は、ここにある。
二〇二六年五月の参拝適日 ─ 暦が選ぶ「藤×初夏の春日詣」三候補
砂ずりの藤の見頃に合わせて参拝するなら、福カレンダー独自の暦データから三日を挙げたい。いずれも二〇二六年五月、奈良の藤の盛りと重なる。
◆ 五月四日(月・祝)友引/みどりの日/天赦日・寅の日・大明日/十六夜
二〇二六年で最強級の開運日。年に六度しかない天赦日が、寅の日(金運を呼び込む十二支日)、大明日(万事に吉とされる暦注下段)と重なる稀有な一日である。福カレンダーの2026年5月4日 天赦日×寅の日に詳しいが、要するに「年に一度しかない決断・参拝・新調にこの上ない日」。砂ずりの藤の見頃のピークとも重なるため混雑は覚悟したい。早朝の開門と同時に参道に立つのが、福カレンダー編集部の推奨だ。
立夏(りっか)の節入り日。福カレンダーの立夏2026が解くとおり、暦の上では夏の始まりに当たる。一粒万倍日と重なるため、新しい挑戦の宣誓を春日神に届けるなら好機。こどもの日のため家族連れが多く、奈良公園全体が祝祭ムードに包まれる。
GW明けの最初の平日。大安に巳の日(弁財天と縁深い財運の日)が重なる、五月で随一の静かな吉日。混雑を避け、砂ずりの藤の前で時間を取りたい人にはこの日がもっとも向く。本殿前の砂ずりの藤と、萬葉植物園の藤の園、両方をゆっくり巡れるのは平日の余裕があってこそだ。
中元万燈籠と節分の灯り ─ 三千の燈籠に灯る千年の祈り
2026年の暦カレンダー

旅河 楓旅と祈りの編集者
全国の神社仏閣・パワースポットを自分の足で歩き、土地の歴史と信仰を紐解く旅する編集者。地元の方への取材を大切にし、ガイドブックには載らない「祈りの風景」を伝える記事が読者に支持されている。
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